『アダムス・ファミリー』で味わう最高に“不幸せな”気分 杏、二階堂ふみらによる吹替版も必見!

 不気味だけどチャーミング。ハロウインの季節にはぴったりの伝説の家族が帰ってきた。『アダムス・ファミリー』は、アメリカの漫画家、チャールズ・アダムスが1930年代に雑誌『ザ・ニューヨーカー』(コンデナスト社)に連載を始めた1コマ漫画。60年代に実写やアニメでテレビシリーズ化されると彼らは国民的人気者になる。そして、90年代に劇場映画としてハリウッドで実写化されて続編ができるほど大ヒット。21世紀に入ってからはブロードウェイでミュージカル化されてロングランを記録するなど、今も彼らの人気は衰えない。そんな『アダムス・ファミリー』が、初めて劇場用長編アニメとして制作されることになった。

 丘の上の荒れ果てた邸宅に住むモンスターの家族、アダムス・ファミリー。家長のゴメズは、妻のモーティシア、長女のウェンズデー、長男のパグズリーを心から愛している。ただ、目下のところ心配事はパグズリーが、一族に伝わる儀式「セイバー・マズルカ」を披露すること。その日、世界中から一族が駆けつけるのにパグズリーは面倒臭がって練習をしようとしない。一方、モーティシアはウェンズデーが屋敷の外の人間社会に興味を持ち始めたことが気になっていた。いつの間にか、丘の下に人間の住宅地「フツー・タウン」ができていたのだ。モーティシアが止めるのも聞かず、人間社会に興味を持ったウェンズデーはフツータウンの学校に通い始め、人間の女の子のパーカーと仲良くなる。ところがパーカーの母親でフツー・タウンをプロデュースしたテレビの人気司会者、マーゴは、気味が悪いアダムス・ファミリーの存在を知って彼らを追い出そうと画策する。

 本作は映画用のオリジナルストーリーで、不気味なものをこよなく愛するアダムス・ファミリーと、健康的で普通を愛する人間社会との間で大騒動が巻き起こる。アダムス・ファミリーの面白さは、彼らが一般的な人間社会と正反対の価値観を持っていること。ゴメズが「お前、不幸せかい?」と尋ねると、モーティシアが「不幸せすぎて怖いほどよ」とニッコリ笑う。そんな原作で有名なやりとりも映画に使われているが、そのズレがブラックな笑いを生み出している。本作ではそんな原作本来の魅力を生かしながら、アダムス一家と人間社会の衝突を面白おかしく描くことで、肌の色や思想の違いでいがみ合う現代社会を風刺する。

 本作の監督を手掛けているのは、コンラッド・ヴァーノンとグレッグ・ティアナンのコンビ。二人は前作『ソーセージ・パーティー』(2016年)で人間に虐殺される(食べられる)スーパーの食材の反乱を下ネタ満載で描いていて、風刺が効いた毒気たっぷりの笑いはお手のもの。今回は下ネタを控えながらも弱者の立場に立って、一方的に価値観を押し付ける世の中に異議を唱えている。映画のオープニングはゴメズとモーティシアの結婚式なのだが、そこに彼らを目の敵にする人間たちが現れて襲いかかる。ホラー映画の古典『フランケンシュタイン』(1931年)のクライマックスを彷彿とさせるシーンだが、それと同じ状況が映画の後半にも待ち受けている。自分たちと違う存在を力で排除しようとする人々は、モンスター以上にモンスターな存在なのだ。

 コンラッドとグレッグは「人と違うから面白い」という原作のエッセンスを大切にすると同時に、ティム・バートンも影響を受けた原作のゴシックなヴィジュアルの魅力を最大限に生かしている。これまで映像化された作品のなかでは、キャラクターデザインはもっとも原作に忠実。しかも、それをCGアニメーションで再現するという難易度の高い映像表現に挑戦している。

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