イ・ヨンエ14年ぶりのスクリーンへ! 『ブリング・ミー・ホーム』に通底する韓国映画の“無慈悲”さ

 パク・チャヌク監督の『親切なクムジャさん』(2005年)、イ・チャンドン監督の『シークレット・サンシャイン』(2007年)、そしてポン・ジュノ監督の『母なる証明』(2009年)など、韓国映画には、“我が子を思う母親”をテーマとした作品が多い印象がある。しかも、そのいずれもが国際的な評価を獲得している秀作ばかりなのだ。これは一体、どうしたことなのか。もちろん、それらの映画は、いわゆる“母性愛”と呼ばれるようなものを、単に美しく描いただけの作品などではなく……キーワードは“無慈悲”といった言葉になるだろうか。そう、韓国映画はいつだって無慈悲=ノー・マーシーなのだ。そこに今、新たな一本が加わろうとしている。韓国の“国民的女優”のひとりであり、日本でもドラマ『宮廷女官チャングムの誓い』などで根強い人気を誇っている女優、イ・ヨンエ。その彼女が、実に約14年ぶり(!)という歳月を経てスクリーンに帰ってきた作品としても注目を集めている映画『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』のことである。

 奇しくも『親切なクムジャさん』で“我が子を思う母親”を演じたイ・ヨンエが、プライベートでも結婚・出産を経て、自ら“母親”となって臨んだという今回の役どころ。彼女が演じる主人公=ジョンヨンは、6年前に行方不明になった当時7歳の息子を、夫=ミョングク(パク・ヘジュン)と共に今もなお捜し続けている看護師の女性だ。自作のチラシを配りながら、手掛かりのありそうな場所や地域、あるいは児童保護施設などを回る日々を送っているジョンヨン夫婦。けれども、そんな彼女は、さらなる悲劇に見舞われる。例によって韓国映画は、かくも“無慈悲”なのだ。完全に孤立無援の状態となり、もはや自らの生きる意味すら見失いそうになったジョンヨン。そこに、ある怪しげな男から情報が寄せられる。耳の後ろの斑点や火傷の痕など、身体的特徴が息子と一致する子どもを、とある漁村の“釣り場”で見たというのだ。

 その一方で、件の“釣り場”では、ある異様な光景が繰り広げられている。“釣り場”を手伝う無口な子どもを愚弄し、ヘラヘラと笑いながら海に突き落とす従業員の男。どうやら、ここはある“家族”が経営する観光客向けの“釣り場”のようなのだが、その経営者である中年夫婦をはじめ、そこで働く人々はみな、どこか様子がおかしいのだ。そもそも彼らは、本当に“家族”なのだろうか。そこにジョンヨンがやってくる。彼女の息子に似た少年など、ここにはいない。いるのは島に住んでいた老婆から託された身寄りのない少年だけだ。彼女の息子に似た少年など、ここにはいない。一方的にまくしたてる“釣り場”の人々。彼らと懇意だという地元の警察官の態度も、どこか不自然だ。そしてジョンヨンは、この“釣り場”の一家に隠された、ある“真実”を知ることになるのだった。果たして彼女は、愛する息子を家に連れ帰ることができるのだろうか?

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