『MIU404』は回を重ねるごとに面白さが加速 野木亜紀子が突きつける“弱者たちの叫び”
青池透子の物語には、第4話序盤の志摩と伊吹の会話という前置きがある。伊吹が志摩に語る、「タイガーマスク現象」のエピソードだ。タイガーマスクの主人公「伊達直人」を名乗った人物が、児童福祉施設にランドセルの寄付をしたという話を聞いた多くの人々が模倣してランドセルを送ったため、施設側は逆に困ってしまったという実際の話だが、実は伊吹もその内の1人だったと話す。志摩はその時「世の中には、こんなにもいいことをしたいやつがいるんだな」と思ったのだと言う。そして「そのわりに世界はよくならない」と憂う。なぜなら、“いいこと”をするには心の余裕と金銭的な余裕がいるから。
その言葉に対応するように、彼女なりのマネーロンダリングにより、守り通した汚いお金を綺麗な宝石に変え、ウサギのぬいぐるみとして寄付することに成功した青池は、「これまで全然余裕がなくて募金とかしたことなかったんです。だから」と晴れやかな笑顔を浮かべる。
彼女が残りの命の時間を懸けて行ったのはそんな“いいこと”だ。せせこましい世の中では時に「寄付=美談/偽善」としてやっかみと共に片づけられる、心と金銭的な余裕の両方がある人のみができる“いいこと”は、「わたしさん」というありふれたアカウント名の彼女のSNSが発した渾身の叫びとなって、彼女が流す血となって、ぬいぐるみのウサギの目となって、なんとなくテレビ画面を見つめている視聴者の心を突き刺す。
「どこなら綺麗に生きられるだろう」と呟いた彼女は、綺麗なままでは渡っていけなかった日本社会への恨み言を見事に反転させる。真っ当に生きたくても生きられずギリギリの状態で生きていた彼女はようやく“心の余裕”を得て、死んでいく。まだ見ぬ異国の「ミリオンダラーガール」に、物語の“続き”を託して。
そして、バックに流れるのどかなメロンパンの歌とは不釣り合いな、星野源演じる志摩の、死に対して一切の怯えを見せない、むしろ死を望んでいるかのような穏やかな狂気の表情。第4話は影も形も現さなかった菅田演じる赤い服の男。第1話の老女とは違い、見つからないままの成川少年、彼を掴むことができなかった九重(岡田健史)。タイプの異なる事件を解決していく1話完結型のドラマであるにも関わらず、零れ落ちるように残されていく謎と不穏な空気が我々の心を掴んで離さない。
■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住。学生時代の寺山修司研究がきっかけで、休日はテレビドラマに映画、本に溺れ、ライター業に勤しむ。日中は書店員。「映画芸術」などに寄稿。
■放送情報
金曜ドラマ『MIU404』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:綾野剛、星野源、岡田健史、橋本じゅん、渡邊圭祐、金井勇太、生瀬勝久、麻生久美子
脚本:野木亜紀子
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、加藤尚樹
プロデュース:新井順子
音楽:得田真裕
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/MIU404_TBS/