山内マリコ作品、なぜ次々に実写化? 門脇麦×水原希子『あのこは貴族』への期待

山内マリコ著「あのこは貴族」(集英社)

 その点、『あのこは貴族』(2016年,集英社刊)は違った。東京生まれ東京育ちのお嬢様・華子と、地方出身で上京し、バリバリ働いて生きてきた美紀の邂逅の物語。

 「閉塞した場所」は地方都市に限らないということを示した点で出色の作品であり、失踪することでしか自由を得られなかった彼女たちが、ちゃんと実際的な方法で、自身を解放する手段を獲得しているという点で、前述した2作品と大きく違っている。

 その背景には、2017年初出、今年6月に発行された『メガネと放蕩娘』文庫版あとがきにおいて、「若さを持て余し投げやりな態度で、寂れた地方都市に生きる女の子たちの姿には物憂げな美しさがあります。しかしそれが許されるのはせいぜい20代まで。(中略)年齢や立場が変わったこと、そして地元を「退屈だ」と罵ったつぐないとして、もっと実際的な物語を書かねばと思うようになりました(p.284)。」と清々しいほどあっさりと手のひらを返していることからわかるように、山内マリコ自身の心境の変化があると言えるだろう。

 自分は、彼らの世界からあまりにも遠い、辺鄙な場所に生まれ、ただわけもわからず上京してきた、愚かでなにも持たない、まったくの部外者なのだ。でもそれって、なんて自由なことなんだろう(『あのこは貴族』,集英社文庫,p.252)。

 山内マリコ至上最も清々しく、女性たちの解放を描いたこの物語が映画化されることを嬉しく思う。山内マリコ作品は2度目になる門脇麦が、『ここは退屈迎えにきて』とは全く対照的な超お嬢様を演じるというギャップにも期待である。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住。学生時代の寺山修司研究がきっかけで、休日はテレビドラマに映画、本に溺れ、ライター業に勤しむ。日中は書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■公開情報
『あのこは貴族』
2021年全国公開
脚本・監督:岨手由貴子
出演:門脇麦、水原希子
原作:山内マリコ(『あのこは貴族』集英社文庫刊)
配給:東京テアトル/バンダイナムコアーツ
(c)山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
公式サイト:anokohakizoku-movie.com
公式Twitter:anokohakizoku

関連記事