90~00年代の恋愛ドラマになぜ魅了されるのか? ヒットメーカー北川悦吏子と中園ミホの脚本論

90~00年代の恋愛ドラマになぜ熱狂?

恋愛ドラマのヒットメーカー北川悦吏子、中園ミホ、野島伸司

 共に90年代~00年代の恋愛ドラマのヒットメーカーである北川悦吏子との相違点はたくさんあるが、その一つに、物語の作られ方の違いがあると思う。

 北川悦吏子の場合、何より「感性」の人であり、時代の空気を肌で感じ、自身のアンテナに引っかかった風景や出来事を直感的にとらえ、自身の中から湧き出る物語を綴っていくスタイル。ヒロインは『愛していると言ってくれ』や『半分、青い。』(NHK総合)に至るまで共通して見られるように、まっすぐでエネルギッシュで、猪突猛進型で、その一方で「寡黙でクールで、ナイーブ」な男性を輝かせる。

 対して中園ミホの場合、“取材の中園”と言われるように、脚本を執筆するにあたり、かなりの取材を重ねることで知られている。『For You』ではシングルマザーを、『やまとなでしこ』では20代の女性たちを、後にお仕事で大ヒットを連発する流れにおいては、『ハケンの品格』(日本テレビ系)で派遣社員を、『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)では医師に取材し、本音を引き出し、それらを作品に反映させているのだ。

 だからこそ、中園ミホが描く女性たちは、その時代の女性の心情に寄り添い、共感を呼ぶだけでなく、ブレない強さを持つ憧れの存在ともなってきたのだろう。

 バブルによってテレビの娯楽化が進み、高級マンションに住むオシャレな人々が繰り広げる80年代の軽佻浮薄なトレンディドラマ。それがバブル崩壊とともに、『東京ラブストーリー』(1991年/フジテレビ系)を機に90年代ドラマは様変わりし、リアルな等身大の人物や地方回帰が描かれるようになっていく。

 そうした中、ヒットメーカーの野島伸司は、フジテレビ系で『101回目のプロポーズ』(1991年)や『ひとつ屋根の下』(1993年)など、ベタな王道物語を描き、一方で、TBS系で『人間・失格~たとえばぼくが死んだら』(1994年)や『高校教師』(1993年)など、トラウマや禁断の愛など、センセーショナルな題材の中に「破滅の美」を描くようになっていった。

 また、『親愛なる者へ』(1992年/フジテレビ系)、『素晴らしきかな人生』(1993年/フジテレビ系)、『この愛に生きて』(1994年/フジテレビ系)、『恋人よ』(1995年/フジテレビ系)、『青い鳥』(1997年/TBS系)、『眠れる森』(1998年/フジテレビ系)など、緻密な構成と、スリリングな展開、文学的香り漂う繊細な筆致により、普遍的愛と現代人の孤独を描いてきた名脚本家もいた。

 力あるストーリーテラーたちが活躍した90年代~00年代の恋愛ドラマ。その中でも同時期に活躍した女性脚本家である北川悦吏子と中園ミホは、物語の紡ぎ方の違いや作風の違い、キャラクターの違いなどが楽しめる好対照の二人である。

 ちなみに、『やまとなでしこ』の特別編放送決定で沸く中、Twitterで中園ミホとの交流を問われた北川悦吏子は、こんなレスをしている。

「ミホは仲良くしてますよ。一番、中園さんらしい作品だよね。あの頃は仲悪かったです。今は仲良いです」

 コロナ禍を機に、20年以上の時を経て名作ドラマが続々と再放送される中、脚本家しばりで90年代~00年代の作品を振り返ってみるのも面白いだろう。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
『やまとなでしこ 20周年特別編』
フジテレビ系にて放送
第2夜「いつか王子様が」:7月13日(月)21:00~22:48
出演:松嶋菜々子、堤真一、矢田亜希子、筧利夫、須藤理彩、東幹久、森口瑤子、西村雅彦ほか
脚本:中園ミホ、相沢友子
主題歌:MISIA「Everything」(Sony Music Labels)
企画:石原隆
演出:若松節朗、平野眞
プロデュース:岩田祐二
制作:フジテレビ
制作著作:共同テレビジョン
(c)フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/nadeshiko_sp/
公式Twitter:@nadeshiko20th

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