『銃2020』が撃ち抜く現代社会の歪み アフターコロナ時代の日本を反映した作品に

東京オリンピックの強烈なカウンター

 物語の鍵を握る怪しげな男役に佐藤浩市を起用していることも含めて、恐らく奥山和由の念頭にあったのは、かつて自らが製作総指揮を務めた映画『GONIN』(1995年)のような作品だったのだろう(武正晴監督は、『GONIN』の助監督を務めていたという)。けれども、今の日本を生きる若者に、『GONIN』の登場人物たちのようなギラついた欲望や、生への執着はみられない。少なくとも、かつてと同じような形では。では、そんな現代日本の底辺を生きる、ひとりの女性が銃を拾ったら? 次第に明らかとなる東子の過去。彼女が本当に銃を向けるべき相手は誰なのか。物語はやがて意外な方向へと舵を切り、一発の銃声と共に東子の“世界”は反転する。

 「もし、武監督と自分で原案を考えたら、このような映画はできていない」――奥山自身が認めるように、この映画において最も重要な役割を果たしているのは、「今度は女が銃を拾う話をやりたい」という奥山の依頼に応えて自ら原案を書き下ろし、脚本にも参加している小説家・中村文則の存在なのだろう。2002年に『銃』でデビューして以降、変わりゆく日本の情況を見据えながら、小説という形で自らをアップデートさせてきた彼が、極限の状況を生きる“東子”という女性に託した一抹の“希望”。

 “2020”という刻印の押されたタイトルの通り、本作は当初から2020年の夏――東京オリンピックの開催直前に、そのある種の“陰画”、もしくは強烈な“カウンター”として公開されることを念頭において制作されたという。けれども、奇しくも東京オリンピックは延期となり、周知の通り今、東京の街は、新型コロナという依然として終わりの見えない不安の只中にある。その状況を踏まえた上で、奥山は次のようなコメントを残している。

 「この映画の主人公には、アフターコロナのいまのほうが共感する人は多いと思う。いま、あらゆる物事を考え直す時期にきている」と。なるほど、その通りかもしれない。なぜ、こんなにも息苦しいのか。無意識のうちに、私たちを縛り付けているものの正体とは。そして、私たちが今、本当に心の底から求めているものは何なのか。そう、今は、この国の社会の在り方も含めて、あらゆる物事を考え直すべき時期なのだろう。二重にも三重にも解釈が可能である本作の結末同様、それは、明確な答えが瞬時に弾き出せるような、単純な作業ではない。しかし、だからこそ、この時期、このタイミングに観ることに意味がある――『銃2020』は、そういう映画に仕上がっているように思えてならないのだった。必ずしもわかりやすい映画ではない。けれども、いわゆる“男性性”の問題も含めて、本作が投げ掛けるものは思いのほか多い。

■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「リアルサウンド」「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。Twitter

■公開情報
『銃2020』
TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中
企画・製作:奥山和由
原案:中村文則
監督:武正晴
脚本:中村文則、武正晴
出演:日南響子、加藤雅也、友近、吹越満、佐藤浩市
製作:吉本興業
企画:チームオクヤマ
制作プロダクション:エクセリング
配給:KATSU-do
(c)吉本興業
2020年/日本/カラー/76分/DCP/5.1ch/ヨーロッパビスタ
公式サイト:thegunmovie.official-movie.com/
公式Twitter:@GunMovie
公式Instagram:@gun_movie2020

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