金子大地×藤野涼子が体現した青春の痛み 再放送中『腐女子、うっかりゲイに告る。』の挑戦

 このドラマで描かれるのはパステルカラーの青春ではなく、どこかくすんだ青味の強い世界である。残酷で繊細でエネルギーを持て余し、未来の自分が想像できない高校生たち。純の幼馴染、亮平を演じる小越勇輝がとてもいい。じつは三浦に惹かれながら、ふたりのことを応援してきた亮平は「純がいなくなったら誰の股間を揉めばいいんだよ」と大阪に発つ純にむかって笑う。純の性的指向を知っても子供のころと変わらない笑顔で普段と同じ軽口をたたく彼は天使だ。

 地上波のドラマでLGBTQの人々が描かれる際、これまで多かったのがいわゆるおネェキャラとして扱われるパターンである。見た目もデフォルメされることがほとんどで、どちらかというと笑いの部分を担って登場することも多い。

 そんなありきたりで薄っぺらいパターンを『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』は真っ向からブチ壊した。家族と同性の恋人の両方を持つことを「僕はコウモリだから」と哀しい笑顔で語る誠、PC上で純とやり取りをし、不意に自らの命を絶ったファーレンハイト(声:小野賢章)、そして純。3人それぞれの葛藤が静かに、またリアルに紡がれ、それに三浦をはじめとする周囲の人たちが呼応する。

 NHKのよるドラは『腐女子~』に加え、『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』や『だから私は推しました』『伝説のお母さん』など、社会的なテーマを織り込んだ脚本をキレっキレの演出で放送しているNHKのチャレンジ×新世代枠だ。現在は新型コロナウイルスの影響で新作のOAが止まってはいるが(9月12日より『彼女が成仏できない理由』放送決定)、これからも観る側の脳と心に何かを強く撃ち込むようなドラマを放送してほしい。

■上村由紀子
ドラマコラムニスト×演劇ライター。芸術系の大学を卒業後、FMラジオDJ、リポーター、TVナレーター等を経てライターに。TBS『マツコの知らない世界』(劇場の世界案内人)、『アカデミーナイトG』、テレビ東京『よじごじDays』、TBSラジオ『サキドリ!感激シアター』(舞台コメンテーター)等、メディア出演も多数。雑誌、Web媒体で俳優、クリエイターへのインタビュー取材を担当しながら、文春オンライン、産経デジタル等でエンタメ考察のコラムを連載中。ハワイ、沖縄、博多大吉が好き。Twitter:@makigami_p

■放送情報
よるドラ『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』
NHK総合にて再放送(29分×8回、2回)
6月13日(土)〜8月1日(土) 毎週土曜23:30〜
6月20日(金)〜8月8日(金)毎週金曜深夜1:05〜
原作:浅原ナオト『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』
脚本:三浦直之
出演:金子大地、藤野涼子、小越勇輝、安藤玉恵、谷原章介ほか
演出:盆子原誠、大嶋慧介、上田明子、野田雄介
プロデューサー:尾崎裕和
制作統括:篠原圭、清水拓哉
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/drama/yoru/fujoshi/

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