ベルリン映画祭で金熊賞を受賞した“実験映画” 『タッチ・ミー・ノット』が誘う模索への旅

 そうすると今度は、ジャック・リヴェットの13時間に及ぶ超大作『アウト・ワン』の副題につながるわけだが、言われてみれば同作も虚構と現実が入り混じり、演者たちから漲る非凡な生命力にあふれた映画であったことを思い出してしまう。

 閑話休題、本作では障がい者をはじめとした社会的なマイノリティの“性”というテーマに着目して物語が運ばれていく。日本でも本作のように、障がい者の性を描いた作品は『パーフェクト・レボリューション』や『37seconds』など、近年になってようやく描かれるようになっているわけだが、その一方でまだまだ「触れてはいけない」とする社会的な風潮は極めて強く残ってしまっている。しかしそれはあくまでも他人による一方的な価値観に過ぎず、本人が「触ってもいい」「触らないで」という選択肢を持つことを許容するという極めて当たり前な段階にまで社会がたどり着いてないということともいえる。

 そしてそれは“性”という部分に限ったことでも、マイノリティに限ったものでもない。ひとりの人間が他者と関わり合うこと、孤独との向き合い方、壁を超えて親密さを得るまでの過程は難儀なもので、また他者と適切な距離を保つということさえも想像以上に難しい。だからこそ本作は、前述したように映画の従来的な構造を超越した多層構造を、さらに複雑な形で設けているのであろう。観念的にも論理的にも完璧なかたちでは掌握しきれない課題に向けて思考を重ねる作り手の脳内に観客を招待し、ともにその余白を見つめながらひたすら前向きに模索を重ねていく。結果的に複雑化し、確たる答えがすぐに見つからなくても、一歩ずつ考えていけばいいのだと。

■久保田和馬
1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■公開情報
『タッチ・ミー・ノット ~ローラと秘密のカウンセリング~』
7月4日(土)より、シアターイメージフォーラム、大阪シネ・ヌーヴォ、アップリンク京都、大分シネマ5にて、7月10日(金)より福山駅前シネマモードほか全国順次公開
※公開初日・2日目限定で、シアターイメージフォーラム、大阪シネ・ヌーヴォ、アップリンク京都、大分シネマ5にて監督・キャストによる特別インタビュー映像も上映
※公開初日来場者特典:B2ポスタープレゼント(シアターイメージフォーラム限定) 
監督・脚本・編集:アディナ・ピンティリエ
出演:ローラ・ベンソン、トーマス・レマルキス、クリスチャン・バイエルライン、グリット・ウーレマン、ハンナ・ホフマン、シーニー・ラブ、イルメナ・チチコワ、アディナ・ピンティリエ
配給:ニコニコフィルム
後援:在日ルーマニア大使館
2018年/125分/英語/ビスタサイズ/5.1ch/DCP/ルーマニア、ドイツ、チェコ、ブルガリア、フランス/R18
(c)Touch Me Not – Adina Pintilie
公式サイト:http://tmn-movie.com/

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