『美食探偵 明智五郎』希望を示す衝撃の最終話に 中村倫也、小芝風花、小池栄子らが見せた名演
新型コロナウイルスの影響により一時は撮影が中断となっていた『美食探偵 明智五郎』(日本テレビ系)もついに最終話を迎えた。制作スタートの時期が早かったということもあり、2020年春クールの地上派ドラマのなかでは一番乗りで全9話を完走。“新作ドラマ”の勢いを止めなかった本作の尽力にまずは感嘆の意を示すべきだろう。それと同時に、その最終話では役者たちの演技が爆発し、物語では「食べること」や「愛」の重要性が語られる濃密な展開に。“コロナ禍のドラマ”という点においても物語的にも、「絶望のなかにある“唯一の希望”」を映し出した、『美食探偵』衝撃の最終話を振り返る。
第8話のラストにて、マリア(小池栄子)とともに奈落の底へ落ちていった明智(中村倫也)。苺(小芝風花)を捨て、闇へ堕ち、もう二度と戻ってこないかと思われたが、しかしある日あっさりと彼は探偵事務所へ帰還する。明智が戻ってくるまでの数日間について、何が起こったのかという真相が語られることは結局なかった。それでも、桃子(富田望生)の推測から「明智さんがマリアを殺したのではないか」と苺も懸念を抱くように。そのままマリアは半年間、姿を消し、生活に平穏が戻ってきたかに思えたが……。
マリアは死んだ……とそう簡単になるわけもなく、“政府要人毒殺テロ”を経て、明智と苺を招いた“最後の晩餐”へ。シェフ(武田真治)が作った料理に対して、「美味しいです」と述べながらも、「でもこれが最後の晩餐なんか私は嫌。お料理っていうのは、食べる相手のことを思って作られないと美味しくならないと思います」と苺は本心を告げる。思えばあのペンションに集まった面々は、食べる相手のことを思って作った料理をその相手に蔑ろにされてしまった、“料理”に悲しい記憶を持つという点で共通するものたちだった。明智は母親の料理が食べられず、マリアは夫に裏切られ、マリアファミリーもそれぞれに愛のこもった料理を対象に届けることができなかったのだ。
そんななかでも唯一料理に対する希望を失っていない苺は、「私は、いつだってうちのお客さんを元気にしたいと思って作っています」と強く告白する。しかしその主張もあえなく、マリアは猛毒であるトリカブトを苺の首元へ注入。「私たちは絶望の名の下に結ばれているの!」と反論を止めない。
最終話の白眉となるのは間違いなくこの後の明智の激白であろう。「絶望ばかりの人生だったのかもしれない」と自らの過去を憂いながらも、そんなときに出会ったちくわの磯辺揚げが、それを作る他でもない小林苺が、「僕も生きていていいのだ」と教えてくれる希望になっていたこと。「食べることは生きること」であるとし、「食べることで希望が生まれる」のだと彼は続ける。あの場所に残されていた“唯一の希望”とは、苺であり、毒物を差し替えたシェフでもあり、料理でもあった。それは言い換えれば“愛”であるだろう。愛があるから料理は美味しくなるし、愛があるから人生は彩りを増す。マリアが海の底に沈みながら見た夢の中には、マリアファミリーと明智が愛のこもった食事をともにする、紛れもない希望の世界が描かれていたはずだーー。