『中学聖日記』は「なりたい自分」を模索する物語だった 有村架純×岡田健史の名演に寄せて

「なりたい自分」を模索する人たちの救い

 晶もまた聖との恋を通じて「なりたい自分」を見つけていく。晶の「なりたい自分」は最初から明確だった。好きという正体不明の感情を持て余してばかりいた晶は、ずっと「聖ちゃんに優しくできる自分」になりたかった。だけど、うまく優しくできず苛立っていた。

 やがて想いが通じてからは、晶の「なりたい自分」は「聖ちゃんの隣にいる自分」になった。そのためにちゃんと志望の大学を決めて勉強も頑張る。それが、晶にとっての早く大人になる方法に見えた。

 けれど、それもまた最終的な「なりたい自分」ではなかった。晶も同じように自らの意思で「聖ちゃんの隣にいる自分」を手放した。その代わりに手に入れたものが「人を大切にできる自分」だった。

 大切なのは、聖ちゃんだけではない。自分が聖ちゃんを大切にしたいと思うのと同じくらい、もしかしたらそれ以上に聖ちゃんを大切にしたいと思っている人がいる。そして、そんな自分のことを大切にしたいと思ってくれている人もいる。そういうすべての人たちを「大切にできる自分」。

 晶の優しさはいつも聖にばかり向いていて、母の愛子(夏川結衣)に対しては回を重ねるごとに反発的な態度を示し、同級生のるな(小野莉奈)に対する対応も誠実とは言えなかった。そんな自分のことしか頭になくて、聖ちゃんのことになると何も見えなくなってばかりいた少年は、そのまっすぐな眼差しは変わらないまま、いろんな人のことを思える優しさを身につけた。

 だからこそ、最後のあの「お母さん、ありがとう。行ってきます」が温かく、頼もしく響いた。その成長に、彼に恋したたくさんの人が涙した。

 『中学聖日記』は、モノクロの世界で誰にも言えない言葉をつぶやいていた聖と晶が、「なりたい自分」を見つけて、色あざやかな世界へと踏み出していく、そんな物語だった。

 放送から1年半もの時間が流れたけれど、きっと今も聖のようにうまく自分を認められない人はたくさんいる。晶のように内にこもって心を閉ざしてしまっている人も、きっと。そんな人にこそ、この機会に『中学聖日記』を観てほしい。

 迷い、傷つき、時に過ちを犯しながらも、「なりたい自分」を模索し続けた聖と晶の歩みは、きっとあなたの救いになると思うから。

■横川良明
ライター。1983年生まれ。映像・演劇を問わずエンターテイメントを中心に広く取材・執筆。初の男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が発売中。Twitter:@fudge_2002

■放送情報
『中学聖日記 特別編』
TBSにて放送(一部地域を除く)

第1話:5月25日(月)23:56〜24:55
第2話:5月26日(火)23:56〜24:55
第3話:5月27日(水)23:56〜24:55
第4話:5月29日(金)24:20~25:20
第5話:6月1日(月)23:56〜24:55
第6話:6月2日(火)23:56〜24:55
第7話:6月3日(水)23:56〜24:55
第8話:6月5日(金)24:20~25:20
第9話:6月8日(月)23:56〜24:55
第10話:6月9日(火)23:56〜24:55
第11話:6月10日(水)23:56〜24:55

出演:有村架純、岡田健史、町田啓太、マキタスポーツ、夏木マリ、友近、吉田羊、夏川結衣、中山咲月
原作:かわかみじゅんこ『中学聖日記』(祥伝社フィールコミックス)
脚本:金子ありさ
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、坪井敏雄
主題歌:Uru「プロローグ」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/_tbs/

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