『ミッドナイト・ゴスペル』なぜ話題に? 新感覚アニメーションが可能にした、壮大なテーマの表現
土居伸彰氏は、原形質性について、従来はビジュアルの変容を指すものとして用いられてきたが、エイゼンシュタインは本当はそうは語っていないと言う。ビジュアル自体が変容するというよりは、そのビジュアルを解釈する仕方が無数にあり、それは常に変容し得るものだということが本来の原形質性の意味するところなのだそうだ(参照:個人的なハーモニー : ユーリー・ノルシュテイン『話の話』を中心としたアニメーションの原形質的な可能性について)。
本作は、キャラクターも世界も絶え間なく変容する。最終話では母と対話しながら主人公の姿は子どもから青年、老人へと変化し、さらには妊娠する。そして主人公が生んだ子どもは母親の生まれ変わりでインタビューは続いてゆく。何にでも変化しうるアニメーションがこうして輪廻転生へとつながってゆき、生命の神秘という宇宙規模のテーマへと拡大してゆく。音声だけなら身近な者の死という極めて個人的な事柄にとどまっていたものが、アニメーションの原形質性によって壮大なテーマと接続されてゆくのだ。
ビジュアルの変容とともに多義的な解釈も存分に可能な作品で、いかなる意味にも固定されないという点で、エイゼンシュタインが語った本来的な意味における原形質性を持った作品と言えるだろう。ただのシニカルなジョークを連発するアニメーションではない、壮大な宇宙と生命の神秘の一部に我々自身も含まれるのだという変性意識を叩き込む驚異的な作品だ。
■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。
■配信情報
『ミッドナイト・ゴスペル』
Netflixにて独占配信中
配信サイト:https://www.netflix.com/jp/title/80987903?source=35