話題沸騰の“ゲテモノドキュメンタリー” 『タイガーキング』を生んだアメリカ発ゴシップ文化とは?

 アメリカおよび世界中がコロナ禍に突入したばかりの3月20日、Netflixは1本のドキュメンタリー・シリーズの配信を開始した。多くの人たちが外出禁止令を受けて自宅にとどまる中、オクラホマ州の動物園経営者ジョー・エキゾチックを追った『タイガーキング:ブリーダーは虎より強者?!』は配信開始から10日間で3430万人が視聴し、Netflixの膨大な作品群の中で最も成功したシリーズになった。

 今作の人気沸騰に伴って、いくつもの二次プロジェクトが進行している。配信から2週間後の4月にはNetflixがドラマシリーズ化を発表。『glee/グリー』やNetflixで配信中の『ハリウッド』を手がけたライアン・マーフィーが製作し、ロブ・ロウが参加する。一方、CBSは月刊誌に掲載されたルポルタージュを原作に、8話のドラマシリーズをニコラス・ケイジ製作総指揮・主演(ジョー・エキゾチック役)で制作する。また、テレビ番組『サタデー・ナイト・ライブ』、『スキャンダル』(2019年)などに出演しているケイト・マッキノンがジョーの宿敵キャロル・バスキンを演じるポッドキャスト・ドラマも企画中だ。

『タイガーキング:ブリーダーは虎より強者⁈』

 『タイガーキング』は、オクラホマ州でネコ科大型動物を集めた施設を経営するジョー・エキゾチックことジョゼフ・マルドナド=パッセージ(通称タイガーキング)と、彼を取り巻く一筋縄ではいかない人たちの言動を記録したドキュメンタリー。ブリーダーとして虎などの繁殖ビジネスで儲けたジョーは、動物愛護団体を主催するキャロル・バスキンと火花が飛び散るガチバトルを繰り広げることになる。このキャロルもまた恐ろしくキャラ立ちした女性で、元夫の殺人及び死体遺棄疑惑がかけられている。そのほか、ジョーの夫たちや動物園の従業員、リアリティTVのプロデューサーなど登場人物たちの常軌を逸した言動は、自宅検疫中の善良な市民の意識をコロナ禍から遠ざけることに成功した。その名の通り虎の威を借りて名(迷)声を得たジョーはオクラホマ知事選に出馬するまでになったが、2018年に野生動物保護法など19の法令違反で22年の求刑を受け、現在も服役中である。7話のシリーズでジョー逮捕までの軌跡を追い、4月12日に配信された8話目のボーナスエピソード「タイガーキングと私」は爆発的人気を受けた後日談を、ジョー以外の主な出演者とのリモートインタビューで構成されている。そこで司会を務めた俳優でコメディアンのジョエル・マクヘイルの終始半笑いの態度こそ、視聴者が『タイガーキング』を観る視線だった。

『ホワイト・ヘルメット -シリアの民間防衛隊-』

 もう説明はいらないだろうが、Netflixはアカデミー賞にノミネートされるような映画作品から世界各国のオリジナルドラマ、アニメ、そしてTOP10リストの上位を賑わす韓流作品まで幅広いエンターテインメントを提供している。2013年に配信開始したオリジナルドラマシリーズ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』でコンテンツ業界に激震を起こしたNetflixが最初にアカデミー賞を受賞したのはドキュメンタリー部門だった。2016年の『ホワイト・ヘルメット -シリアの民間防衛隊-』が第89回アカデミー賞短編ドキュメンタリー部門、ロシアにおける国家主導ドーピング疑惑を追った『イカロス』は、第90回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞している。以降、『ROMA/ローマ』(2018年)や『マリッジ・ストーリー』(2019年)といったフィクション部門での受賞につなげている。

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