第3夜「転・コウ・生」（脚本：森下佳子）

　NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』ファンにとっては降って湧いた幸運。森下佳子脚本、ムロツヨシ、柴咲コウ、高橋一生の3人によるドラマ。まさか『おんな城主 直虎』の直虎と政次が、互いの身体が入れ替わったコウとイッセイになって再び同じ月を眺める姿を、3年後に目の当たりにするとは想像もしなかった。

　3人＋ネコ1匹に降りかかった、「それぞれの身体に入れ替わり続けて元の身体に戻れなくなってしまった」という、カフカの『変身』風「不条理」と同じく、突如カミュの『ペスト』風「不条理」に襲われてしまっている我々の現在においても、こんなにいいことが起こる。世の中捨てたものじゃない。

　まず興味深いのは、3人＋1匹の組み合わせの違いによって生じる、俳優たちの性質の違いである。まず猫と高橋一生の組み合わせが奇妙にいい。そして、性質が似ているのか、「殿」と政次の信頼関係がなせる技なのか、柴咲コウと高橋一生は入れ替わってもそんなに違和を感じさせずにしっくりきてしまうという嬉しい一致。

　だが、ここに2人とは真逆の、パワフルな魅力を持ったムロツヨシが加わることで、一気に面白さが増す。特に、慌てたり叫んだり、変顔をして踊る、見たことのない柴咲コウの姿を目の当たりにできたことは大きな収穫である。さらに土曜ドラマ『三浦部長、本日付けで女性になります。』（NHK総合）でも優れていた、女性を演じるムロツヨシの魅力がここでも光っていた。

　彼らのドラマが教えてくれたのは「勇気を持って変容する」ことの大切さだ。変われない部分はそのままに、今、自分たちにできることを、面白がってやってみる。そうすることできっと、新たな活路が開ける。この不条理を嬉々として受け入れ、「明日の風」を待っている、なんだか嬉しそうな3人＋1匹の姿。

　それはきっと、我々にとっての「今を生き抜くためのヒント」なのである。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住。学生時代の寺山修司研究がきっかけで、休日はテレビドラマに映画、本に溺れ、ライター業に勤しむ。日中は書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■配信情報
『今だから、新作ドラマ作ってみました』
NHKオンデマンドにて配信中

●第1夜 「心はホノルル、彼にはピーナツバター」
作：矢島弘一
出演：満島真之介、前田亜季

●第2夜 「さよならMyWay!!!」
作：池谷雅夫
出演：日向文世、竹下景子

●第3夜 「転・コウ・生」
作：森下佳子
音楽：宮崎誠
出演：柴咲コウ、ムロツヨシ、高橋一生
写真提供＝NHK