『恋つづ』と『テセウスの船』が示した今後のドラマ界トレンド 不安な世の中を忘れさせる清涼剤に

どこから傑作が生まれるかわからない状況

『ゆるキャン△』(c)ドラマ「ゆるキャン△」製作委員会 (c)あfろ/芳文社

 対して深夜ドラマは意欲作が多かった。個人的にもっともハマったのは、女子高生がキャンプする姿を楽しく描いた『ゆるキャン△』(テレビ東京ほか)。

 福原遥や大原優乃といった女優の使い方がとてもうまく、先に制作されたアニメ版の完コピをするという大胆な演出に最初は驚かされたが、何よりソロキャン(一人キャンプ)をする志摩リン(福原遥)と各務原なでしこ(大原優乃)たち野外活動サークルのメンバーの絶妙な距離感がとても心地よく、新型コロナウイルスのニュースでささくれ立っていた心が癒やされる思いだった。

 その意味で『恋つづ』にも通じる安心感があり、アイドルドラマの理想を見せてもらったように感じた。

 一方、野木亜紀子脚本、山下敦弘監督の『コタキ兄弟と四苦八苦』(テレビ東京系)はレンタルおやじとして働く、古滝兄弟の奮闘を描いた1話完結のドラマ。野木と山下の個性がうまく融合したオフビートでビターな仕上がりとなっており、必要以上に盛り上げない雰囲気がコロナ騒動で激しく揺れ動く世の中にうんざりしている身としては緊急避難するシェルターのような役割となってくれたように感じた。

 NHKのよるドラ枠で放送された『伝説のお母さん』は、もっとも今の空気を反映していたのかもしれない。RPGの世界を用いた社会風刺コメディと言える本作は、観ていると背筋が寒くなる瞬間が何度もあり「子育てを後回しにした人類の負けですね。おとなしく滅びましょう」という台詞は何かある度に思い出す。

 MBS(毎日放送)制作の変態教師の女子生徒へのいびつな愛情を描いた学園ドラマ『ホームルーム』やTVO(テレビ大阪)制作の46歳の中年男性が過去にタイムスリップして高校生活をやり直す姿を描いた80年代ノスタルジーに満ちた学園ドラマ『ハイポジ 1986年、二度目の青春。』など、地方局制作の深夜ドラマの奮闘も目立った。

 前クールに放送されたメ~テレ(名古屋テレビ)制作の『本気のしるし』の時にも思ったことだが、今は地方局だろうと深夜枠だろうと、力のある映画監督に任せることでハイクオリティの作品が生まれることが当たり前の状況になってきている。配信ドラマも含めると、どこから傑作が生まれるかわからない状況で、地上波の外に目を向けると意外と豊作だったのかもしれない。

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