フジテレビ、スペシャルドラマの濃厚な作りで再評価? 『教場』の成功から考察

 1月4日、5日の二夜連続で放送されたドラマ『教場』(フジテレビ系)は、主演の木村拓哉はもちろんのこと、テレビドラマの今後を占う上でも、とても重要な作品だった。

 タイトルの教場とは警察学校におけるクラスのこと。物語は、臨時指導官となった風間公親(木村拓哉)と彼が受け持つことになった生徒たちに焦点を当てた群像劇となっている。原作は長岡弘樹の連作短編集で、警察学校を舞台にしたミステリー小説。刑事ドラマと学園ミステリーを組み合わせたような作りなので、一話完結の連続ドラマにしても十分成立しただろうが、あえて2時間オーバーのSPドラマに圧縮して、二夜連続で放送したことが、本作の成功要因だろう。

木村拓哉の方向性とフジテレビの大人向け路線へのシフト


 今年の年末年始は、働き方改革の影響もあってか、過去にヒットした連続ドラマの続編をSPドラマで放送するというケースが多かった。過去に放送された名作ドラマの一挙再放送も多く、特にTBSでは『逃げるは恥だが役に立つ』『アンナチュラル』『義母と娘のブルース』といった作品を放送し、SNSで話題となった。良く言えば手堅い采配、悪く言えば保守的なラインナップだったが、そんな中で『教場』が異彩を放っていたのは、本作が新しいことに挑戦する攻めの作りだったからだ。

 もちろん主演が木村拓哉だという時点で、ある程度の視聴者は獲得できるという勝算はあったのだろう。しかし今の時代、キャスティングだけで視聴者がドラマを観るということはありえない。むしろ木村拓哉を看板に掲げたからこそ、絶対に失敗できないというプレッシャーの方が強かったと思う。そんな中、本作は今までの若々しい青年とは違う、白髪で片目が義眼の厳しい鬼教官という役を木村に与えた。

 鋭い観察眼を持つ風間は、疑念を感じた生徒に退校届を突きつけて「書け」と迫る。行動の真意がわからずに生徒たちは混乱するが、実はそこに風間の隠れた意図があったとわかることが、本作のミステリー的な面白さだ。多くを語らず生徒に厳しく接する風間は、今の時代に似合わない古臭い男である。先日まで放送されていたドラマ『グランメゾン東京』(TBS系)もそうだったが、近年の木村は、若者のオピニオンリーダー的な新しい青年像から脱却し、時代に取り残された古風な男へとシフトしようとしている。

 そんな木村の方向性と近年のフジテレビの大人向け路線へのシフトがうまく噛み合った結果、『教場』という傑作は生まれたのだろう。面白いのはこの路線変更が、先行するテレビ朝日ほど徹底できていないことだ。つまりキムタクもフジテレビも、老けようとしながらも老けきれない青臭さがまだまだあるのだが、このおじさんになろうと無理している背伸び感が、作品はもちろん、俳優・木村拓哉に色気と緊張感を与えているのだ。

 この手触りは、クリント・イーストウッドに通じるものがある。キムタクには日本のイーストウッドになってほしいと常々、思っていたのだが、今作の老けきれない感じは『ダーティハリー』第一作に出演していた70年代のイーストウッドを見ているかのようで、好感が持てる。

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