映画のトレンドは90年代へ!? 「80年代ブーム」の背景解説&次のフェーズを大予想

 極めつけはNetflixの出現だ。インターネット配信という新しい形態によって、『ROMA/ローマ』(2018年)や『アイリッシュマン』(2019年)のように、大作規模の作品を、作家主義的な内容で撮れる環境が生まれたのだ。これらスタジオの存在によって、個性の強い映画監督がふたたび息を吹き返しはじめている。

 こういった状況を観客も求めているということを実感したのは、『ジョーカー』(2019年)の大ヒットによってである。時代の異端児であった『ダークナイト』(2008年)が熱狂的ファンを生み出した後、その暗い作風“ダーク路線”を引き継いだことで、下降線をたどっていたDCヒーロー映画だったが、現在の暗い世相に、ダーク路線がついにマッチし、ここにきて最高に暗い作品がふたたび大成功したのである。

 そして『ジョーカー』が、『タクシードライバー』(1976年)など、極めて作家主義的なマーティン・スコセッシ監督の諸作を基に撮られているように、“90年代的なるもの”の源流にあるのは、ジョン・カサヴェテス、もう少しさかのぼるとブライアン・デ・パルマなどのインディーズ出身作家であるだろう。これは、日本で「アメリカン・ニューシネマ」と呼ばれる潮流にも合流しており、このさらに源流にはイタリアのネオレアリスモ後の芸術映画や、フランスのヌーヴェルヴァーグ、シュールレアリスム映画など、映画の起源にまで、飛び石のように遡ることが可能だ。このようなビジネス以外のところから端を発している、一種の“奇妙さ”こそが、とらえにくい“90年代的なるもの”のおぼろげな実体である。

 2020年代は、“80年代的なるもの”のカウンターとして、このように、個人の感性が優先される、お化けのようにつかみづらい、人の心を狂わせる混沌が次々に映画のかたちになって現れるのではないだろうか。そうだとすれば、個人的には歓迎したいところだ。

 日本ではどうかというと、いまその走りは山戸結希監督に代表される哲学的な“難解さ”に収斂されているように感じられる。日本ではもはや文学ですら、表層的な“分かりやすさ”や“楽しさ”ばかりが重要視されるようになっているなか、エンターテインメント業界で評価される、こういった才能は非常に貴重である。その意味では、2020年公開を予定している『シン・エヴァンゲリオン』が控えていることも楽しみのうちである。これもまた、90年代の亡霊のような作品だ。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■リリース情報
『ジョーカー』
1月8日(水)デジタルセル先行配信開始
1月29日(水)ブルーレイ&DVD発売・レンタル開始、デジタルレンタル配信開始
【初回仕様】ブルーレイ&DVDセット(2枚組/ポストカード付)4,980円(税込)
【初回仕様】<4K ULTRA HD&ブルーレイセット>(2枚組/ポストカード付)6,980円(税込)

出演:ホアキン・フェニックス(平田広明)、ロバート・デ・ニーロ(野島昭生)、ザジー・ビーツ(種市桃子)、フランセス・コンロイ(滝沢ロコ)
監督・共同脚本・製作:トッド・フィリップス
製作:ブラッドリー・クーパー、エマ・ティリンジャー・コスコフ
共同脚本:スコット・シルバー 
発売・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
R-15
TM & (c) DC. Joker (c)2019 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited and BRON Creative USA, Corp. All rights reserved.
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/jokermovie/

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