『グランメゾン東京』“フレンチの鬼門”に挑戦 三ツ星の流儀と木村拓哉が抱く料理の哲学

『グランメゾン東京』木村拓哉が抱く哲学

 尾花はナッツ混入事件で「日本の恥」と呼ばれ、京野はエスコフィユ解散によって借金を負っていた。倫子には星を獲得できなかった挫折が原点にあり、相沢は愛娘と離ればなれに暮らす日々だ。萌絵(吉谷彩子)や芹田(寛一郎)も、自身の未熟さから間違いを犯しそうになった過去がある。不格好と言えばそうかもしれないが、生きていく上で避けがたく負ってしまう傷やダメージを隠すのではなく、あくまで受け止めながら三ツ星を目指す姿には、栄光と挫折の両方を経験した者が持つオーラがにじみ出ていた。

 尾花たちがつくる料理にはそのことが端的に表れている。素材の長所を引き出すというグランメゾン東京のポリシーには、尾花たちの人としてのあり方が自然なスパイスとして調合されている。その根底にあるのは料理に対する妥協しない姿勢であり、「人は味によってつながることができる」という確信にも似た思いではないだろうか。だからこそ、尾花たちは“世界一のフーディー”であるリンダにあえて祥平をぶつけたのだ。

 この点で、gakuのオーナーである江藤と尾花たちの間には大きな隔たりがある。江藤にとって料理の味は三ツ星を獲る手段でしかなく、料理人もそのための道具にすぎない。第10話では両者の差が如実に出ていた。とはいえ、ミシュランの審査を前にリンダから辛らつな評価を受け、グランメゾン東京が厳しい状況であることに変わりはなく、このままでは三ツ星はおろか掲載されずに終わる可能性もある。三ツ星を手にできなければ、グランメゾン東京はエスコフィユと同じ運命をたどるおそれもある中、尾花たちはフレンチの“鬼門”マグロ料理を完成することができるのだろうか。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログtwitter

■放送情報
日曜劇場『グランメゾン東京』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54
出演:木村拓哉、鈴木京香、玉森裕太(Kis-My-Ft2)、尾上菊之助、及川光博、 沢村一樹
脚本:黒岩勉
プロデュース:伊與田英徳、東仲恵吾
演出:塚原あゆ子ほか
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/grandmaisontokyo/

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