2019年の年間ベスト企画

年末企画:小田慶子の「2019年 年間ベストドラマTOP10」  アラフィフの三角関係とホームドラマ回帰の兆し

6位『凪のお暇』

 コナリミサトという旬の漫画家の代表作を黒木華、高橋一生、中村倫也という旬のキャストで実写に。この時点でもう半分、成功したようなもの。くるくるパーマヘアも厭わない黒木はハマり役だし、高橋はこじらせ男子を演じさせたら当代一で、毎回オイオイと泣くエンドで笑わせてくれた。中村は原作のゴンとはビジュアルが違うが、今年の人気上昇ぶりはすごかったので、世間的にも“メンヘラ製造機”であったことは間違いない。凪とゴンのラブシーンは今年のプライム帯ドラマで唯一、エロさを表現した場面では。主人公の凪は毒親の母やモラハラ気味の元カレに搾取されていた女性で、見ていると危なっかしくてハラハラ。しかし、原作にない展開となった最終回では、元カレのハグしようという提案をきっぱり断るなど、彼女が自分の人生をしっかりと選び取っていたので、後味が良かった。

7位『わたし、定時で帰ります。』

 画期的な働き方改革ドラマ。これまで『ハケンの品格』(日本テレビ系)、『ドクターX ~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)のように一匹狼的な存在で「残業いたしません」と17時に帰るヒロインはいたけれど、本作のヒロインは正社員として長く仕事をしていくためにこそ定時で帰ると考えていて、そこが新しかった。そう、サステナビリティ(持続可能性)こそ、これからのテーマ。民放の連ドラとしては硬派な問題に取り組んでいて、勇気のいる打ち出し方だったと思うが、「例えホワイト企業でも社員が残業してしまうのはなぜか?」という問題まで描き、きちんと着地させたところが素晴らしい。キャストではヒロインの元カレを演じ、理系男子らしい不器用さを見せた向井理がハマり役。ユースケ・サンタマリアも「働き方改革といっても、残業なしには現場が回らないよ」という立場の管理職役を怪演し、まるで日本型組織の怨霊のようにも見えた。

8位『あなたの番です』

 今年最もお茶の間を賑わせたドラマ。飲み会や小学校の保護者会で共通の話題になったのはこの『あな番』だけだった。マンションの住民間で起こった交換殺人を描き、真犯人は誰か? という謎をミスリードの連続で2クール分展開した。キャストのひとりが言っていたとおり「脚本と演出にマジックがかかっていて」、視聴者はそれにだまされ振り回された。ネットでは「実はこの人が犯人では」「主人公の翔太は二重人格?」と考察班が大活躍。現在、地上波の連ドラは“バズる”ことをひとつの目標にしていると思うが、その点において大成功し、最終的に高視聴率にも結びつけた。死体描写の本気度も日曜放送のドラマとしては画期的だった。キャストでは田中圭が本作の成功で一番手のポジションを確かなものにし、ストーカー気質の女性を怪演した奈緒が一躍、注目された。

9位『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』

 今年最も意表を突かれた作品。地方の町で突然ゾンビウィルスが蔓延し、のどかな木造家屋の庭にゾンビがのそのそと這って来る。パターンとしてはゾンビものの王道だが、主人公たちのどうしようもなさや家族関係を丁寧に描いていたのでキャラクターに愛着がわき、「この人もゾンビになっちゃったら嫌だな」と思えて緊張感が持続した。しかも、容赦なくみんながゾンビになっていく。和製脱力系『ウォーキング・デッド』という感じで、“善きゾンビ”を先頭にしたチューチュートレイン、ゾンビにビニール傘で対抗するなど、このジャンルにおける発明も。当サイトでインタビューしたが、オリジナルでここまで書ける劇作家の櫻井智也は今後、ドラマ界でも注目の人だ。

10位『フルーツ宅配便』

 原作漫画に基づく物語、演技、演出、音楽のどれもがハイレベルで完成度が高かった。濱田岳が演じるお人よしの主人公をデリヘルの店長にスカウトするのが松尾スズキ、店の用心棒が荒川良々。劇団・大人計画のファンなら、まずここで笑ってしまう。そして、それぞれの事情を抱えるデリヘル嬢のキャストも仲里依紗を始め「みなさん、よくこの仕事受けたな」と感心するほど豪華。“社会の底辺にいて”“人生をどぶに捨てている”と思われがちなセックスワーカーたちが幸福を模索する姿を描いてみせた。白石和彌監督はこういう作品も撮れるのだから、映画『麻雀放浪記2020』のように前時代的な女性描写はやめていただきたい。

 10位以内に入れるかどうか迷ったのは『G線上のあなたと私』、『セミオトコ』(テレビ朝日系)、『同期のサクラ』、『みかづき』(NHK総合)。配信ドラマでは、Netflix『全裸監督』が意外に“本番”以外の部分が面白く、女優の肖像権の問題さえなければ入れたかった。キャストで他に面白い演技を見せてくれたのは、『G線上』と『トクサツガガガ』(NHK総合)の松下由樹、『ゾンみつ』、『本気のしるし』(メ~テレ)などで大活躍の土村芳、『モトカレマニア』(フジテレビ系)で驚異の女子力を発揮した田中みな美。『おっさんずラブ-in the sky-』(テレビ朝日系)、『監察医 朝顔』(フジテレビ系)の戸次重幸。『ゾンみつ』、『デザイナー 渋井直人の休日』(テレビ東京系)、『時効警察はじめました』(テレビ朝日系)の岩松了。

TOP10で取り上げた作品に関連するレビュー

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■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。

■放送情報
『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』総集編
[NHK総合]
12月30日(月)
午後1:05~3:20 〈第1部〉前・後編
午後3:25~5:40 〈第2部〉前・後編
[NHK BSプレミアム]
1月2日(木)
午前8:00~10:15 〈第1部〉前・後編
1月3日(金)
午前8:00~10:15 〈第2部〉前・後編
作:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
出演:阿部サダヲ、中村勘九郎/綾瀬はるか、麻生久美子、桐谷健太、斎藤工、林遣都/森山未來、神木隆之介、夏帆/リリー・フランキー、薬師丸ひろ子、役所広司
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/idaten/r/

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