スペインで映画賞と興行成績を制した理由は? 『だれもが愛しいチャンピオン』で“新しい世界”に出会う

『だれもが愛しいチャンピオン』を紐解く

 もちろん、本作はスポーツ映画として、全国大会に出場し、熾烈な戦いを繰り広げるなど、従来の娯楽映画としての興奮も用意されている。素晴らしいのは、練習でも試合でも、アミーゴスがいつでも楽しもうとしているように見えることだ。スポーツには、たしかに厳しい面がある。とくに日本では、アマチュアスポーツや学校の授業であっても、パフォーマンスのために苦痛をともなったり、パワハラ指導が問題になる例が後を絶たない。

 だがアミーゴスのように、試合や練習、そこで発生する様々な過程を面白がり、“楽しいから参加する”という姿勢こそ、スポーツ本来のかたちなのではないだろうか。そう考えれば、たとえ試合に負けたとしても、充実感や楽しい思い出が残るのなら、“勝利”だといえるのではないか。そしてそれは、生き方自体にもつながっていく。このようやシンプルな考え方を分かっているアミーゴスの姿勢に、勝ちや効率にばかりこだわって常にイライラして生きてきたマルコは、逆に学びを与えられ、次第に変化していく。


 アミーゴスが遠征で勝利を収めた帰り、公共のバスで大声を出してしまうシーンがある。乗客や運転手たちは、その姿を奇異にとらえたり、「迷惑だ」と文句を言う。はじめは障がいを持つ人に対して、乗客たちと同じように考えていたマルコは、ここで本気になって、自分ではなくアミーゴスのために怒りを見せる。本作を見ている観客もまた、このときのマルコと同じ気持ちになるのではないだろうか。

 ひとりの人間が、思いもしなかった世界や価値観に出会って、生まれ変わる。それは、われわれ観客にも起こり得る変化である。『だれもが愛しいチャンピオン』は、そのきっかけになり得る新しさを持った一作だといえる。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『だれもが愛しいチャンピオン』
12月27日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国公開
監督・共同脚本・編集:ハビエル・フェセル 
脚本:ダビド・マルケス
出演:ハビエル・グティエレス『マーシュランド』『オリーブの樹は呼んでいる』
配給:シンカ
宣伝:太秦 

文部科学省選定 一般劇映画 (青年、成人、家庭向き)
東京都推奨映画

後援:公益財団法人 スペシャルオリンピックス日本/日本障がい者バスケットボール連盟/(一社)日本FIDバスケットボール連盟/一般社団法人 日本自閉症協会/公益財団法人 日本ダウン症協会/スペイン大使館/インスティトゥト・セルバンテス東京/スペイン政府観光局
協力:アルバルク東京/ANYTIME FITNESS

2018年/スペイン/スペイン語/118分/カラー/シネスコ/5.1ch/原題:Campeones/英題:Champions/日本語字幕:金関いな

(c)Rey de Babia AIE, Peliculas Pendelton SA, Morena Films SL, Telefonica Audiovisual Digital SLU, RTVE
公式サイト:synca.jp/champions/

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