『まだ結婚できない男』は前作と何が違う? 女性キャスト総入れ替えで変化した「独身男女」の描き方

 設定の近いところやや違うところはさておき、なんとなくまどかとの関係が夏美よりもまだ深まっていない印象がある。桑野との関係しかり、夏美自身のおひとり様ライフ描写が前作よりも薄めになっている。もし、前作原理主義者が多いとしたら、これが要因ではないだろうか。前作の夏美はダブル主人公のような印象もあり、理想的な相手役だった。桑野となんかかんか反発しあいながらもうまが合ってそうな感じがよく出ていたし、桑野のような面倒くさい男を夏美はうまく操縦できるだろうと思わせた。夏美は、じつに飾らないシャツにチノパンでも美しく健康的な色気もあって爽やかで。桑野とも一見さばさばしている関係ながら医者である夏美は桑野の痔という恥部を知っているという、つまり最初からマウントをとっていて、そこも安心して見られるドラマになっていたのだと思う。正直、うまくいくに違いないことがわかったうえでドラマが発進していたから楽しめたところもある。結果、ようやく素直になれる最終回に溜飲が下がった。しかも、結論をはっきり書かず、余韻を残したからこそ長く記憶に残るドラマになったともいえるだろう。だからこそ続編企画が成立したと思うが、続編での第一話で夏美とは結局破局、彼女はほかの人(しかもお金持ち)と結婚してしまったというセリフで片付けられてしまう。この展開に、ジュブナイル小説の名作『若草物語』の主人公ジョーが仲の良いボーイフレンド・ローリーと結婚しないで、彼はジョーの妹と結婚してしまう続編を読んだときの落胆を思い出した。物語にもくっつきそうでくっつかないことがあるように、現実ではもっとそういうこともあるものとはいえ、夏美がふつうの資本主義的な幸せを獲得してしまったことがショックである。結婚できないヘンな男を受け止めてくれる理想の女性像だったのに……。

 この状況で相手役になるまどかは明らかに不利である。演じている吉田羊は10年代のさばさば、受け止め系女優ではあるが色気成分やや多めで、バーのママや小料理屋の女将的な色気を若干感じてしまうのだ。しかも年齢非公開とはいえ阿部より十歳ほど若い。高島礼子も稲森いずみより圧倒的にサバサバし、同世代の男性と対等に生きているところが良かったし、つまり、前作のほうが独りで生きる人生を男女対等に描いていて、多様性を謳う現代にできた続編のほうが、男女差ができてしまっているように見える。13年前と比べ阿部寛が俳優としてより圧倒的に大物になってしまい拮抗する相手役がいないのだろう。それがまた、年齢を経て独身を貫くことのリアルを感じさせるではないか。なるほど、ある程度年齢を経た独身男性がかなり年下の女性と結婚するのはこういうことか。

■木俣冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメ系ライター。単著に『みんなの朝ドラ』(講談社新書)、『ケイゾク、SPEC、カイドク』(ヴィレッジブックス)、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』(キネマ旬報社)、ノベライズ「連続テレビ小説なつぞら 上」(脚本:大森寿美男 NHK出版)、「小説嵐電」(脚本:鈴木卓爾、浅利宏 宮帯出版社)、「コンフィデンスマンJP」(脚本:古沢良太 扶桑社文庫)など、構成した本に「蜷川幸雄 身体的物語論』(徳間書店)などがある。

■放送情報
『まだ結婚できない男』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週火曜21:00~21:54
出演:阿部寛、吉田羊、深川麻衣、塚本高史、咲妃みゆ、平祐奈、阿南敦子、奈緒、荒井敦史、小野寺ずる、美音、RED RICE、デビット伊東、不破万作、三浦理恵子、尾美としのり、稲森いずみ、草笛光子
脚本:尾崎将也
演出:三宅喜重(カンテレ)、小松隆志(MMJ)、植田尚(MMJ)
チーフプロデューサー:安藤和久(カンテレ)、東城祐司(MMJ)
プロデューサー:米田孝(カンテレ)、伊藤達哉(MMJ)、木曽貴美子(MMJ)
制作著作:カンテレ、MMJ(メディアミックス・ジャパン)
(c)カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/kekkondekinaiotoko/

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