『ジョーカー』世界的ヒット、『IT/イット』編集版の地上波放送を機に考える、R指定作品の今後

R指定作品は今後どうなる?

 日本でも大ヒット公開中のDC映画『ジョーカー』。世界興業収入は初公開から7週間で10億ドルを突破し、R指定作品としては初の大台到達となった。

 本作は、世界三大映画祭の一つとして数えられるヴェネツィア国際映画祭において、アメコミ作品として初の最高賞獲得の快挙を成し遂げ、また以前からアメコミ映画について懐疑的な目を向けていることで知られるマーティン・スコセッシ監督からも「見事な作品」とお墨付きを受け、米映画批評サイトIMDBでは歴代ランキング12位にランクインするなど、各所で好評価の声があがっていた。

 しかしこの『ジョーカー』において注目が集まったのは、映画作品としての評価のみではない。人気シリーズ『バットマン』のダークヒーロー・ジョーカーの前日譚を描いた本作がR指定作品となった要因でもある過激描写は、公開前より多くの論争を巻き起こしていた。作中における現実の社会問題ともリンクした暴力表現などが、観客のネガティヴな感情を扇動させ、現実世界での模倣犯罪を誘発させる可能性があると危惧されたことで、大手チェーンAlamo Drafthouse Cinemaなど一部の映画館が警告を表明し、公開にあたり警察が上映館で厳戒体制を取って警備を敢行するなどの事態を呼んだ。

 これら異例とも言える対応の背景には、2012年『ダークナイト ライジング』公開時に、米コロラド州の映画館において発生した銃乱射事件がある。事件の発生が同作上映中の劇場内であったことから、犯人がジョーカーを模倣したものと報道された。後日、この報道は「事実に基づいたものではない」と否定されることとなったが、犠牲者遺族らは『ジョーカー』公開にあたり本作の過激表現に対する懸念の表明と銃規制の推進に貢献することを求める書簡をワーナー・ブラザーズへ発表した。このように『ジョーカー』を取り巻く一連の現象は、昨今のR指定作品における表現が社会に及ぼす影響についての議論を生むきっかけとなっている。

 現在ではアメリカ映画協会、通称MPAAが設けた映画製作倫理規定(レイティング・システム)のもとに、アメリカにおける全ての劇場公開映画が製作されている。ではレイティング・システム以前の米映画業界における表現規制と、作り手側や映画市場への影響はどんなものがあったか。

 過去にはヘイズ・コードと呼ばれるガイドラインが、米映画界において導入されていた。これは1934年から1968年まで存続し、あくまで検閲制度ではないものであったが、主に一部の作品における表現を不道徳だと見なしたカトリック団体らの声を受け、業界側が実施していた自主規制条項であった。ヘイズ・コードで禁止、もしくは厳重注意とされていた表現は「“hell”“damn”など冒涜的な言葉を用いること」「好色もしくは挑発的なヌード(シルエットを含む)の描写」「残酷なシーンなど観客に恐怖を与えるシーン」「殺人の手口の描写」「犯罪者への同情を誘う描写」があり、当時のメジャースタジオが製作する映画はこの基準を元に審査され、遵守しない場合には罰金が課せられるなど、業界内では実質的に義務として運用された。

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