『まだ結婚できない男』『まんぷく』『愛がなんだ』……深川麻衣、2019年は変化の一年に
深川麻衣にとって、2019年は変化の年であったように思う。それは、乃木坂46としてのキャリアを超えた知名度だけでなく、女優としての演技力を含めてだ。
2018年、映画初出演にして初主演を務めた『パンとバスと2度目のハツコイ』(以下『パンバス』)で「第10回TAMA映画賞 最優秀新進女優賞」を受賞した深川は、2019年多くの作品に出演した。
朝ドラ『まんぷく』(NHK総合)(2019年1月)
ドラマ『日本ボロ宿紀行』(テレビ東京系)(2019年1月)
映画『愛がなんだ』(2019年4月)
映画『空母いぶき』(2019年5月)
ドラマ『まだ結婚できない男』(カンテレ・フジテレビ系)(2019年10月)
『パンバス』で共演した山下健二郎がパーソナリテイを務める『ZIP!』(日本テレビ系)で深川が特集された際、「乃木坂46だったんですよ」「え、知らなかった!」という街頭インタビューが流れた。2016年にグループを旅立った深川は、自身にとって卒業シングルとなる『ハルジオンが咲く頃』でセンターを務め、地元・静岡で華々しく卒業コンサートを開催した人気メンバーだった。
アイドルから女優へと転身する道は決して平坦な道ではなく、橋本環奈や川栄李奈など誰もが認めるほどに大きく飛躍した人物はそれほど多くはいない。その飛躍したかどうかの指標は人によって様々だが、作品に出続けられているか、視聴者の記憶に残っているかが、活躍を図るパラメーターの一つではないだろうか。2人の出演回数には及ばないまでも、彼女たちに次ぐ位置に深川の名前が挙げられるはずだ。
初の朝ドラ出演と深夜ドラマ初主演を決めた、今年1月。幅広い層から圧倒的支持を受ける『まんぷく』。『孤独のグルメ』『昼のセント酒』の制作陣が揃うカルト的人気の『日本ボロ宿紀行』という両輪での出演は、“朝も夜も深川”というまだ新人の女優としては異例と言える露出頻度だった。深川は乃木坂46に所属していた頃、絶対に怒らないその温厚な性格から“聖母”と慕われていた。おっとりとした雰囲気、滲み出る優しさは、『パンバス』から一貫して深川の個性として表れている。
『まんぷく』ではドラマ終了後にも、公式パロディとして好評を博した日清の袋麺シリーズに松坂慶子らとともに出演。『まんぷく』で演じた香田吉乃同様、気づいたら主役の脇にいるという朝ドラの枠を超えた見事な“助演”だったように思う。『日本ボロ宿紀行』では、亡くなった父の後を継いだ芸能事務所の社長という立場で、売れない演歌歌手・桜庭龍二(高橋和也)のマネージャーを熱演。ふてくされ顔、しかめっ面の連発という『まんぷく』との対比、新境地の役柄でありながらも、最終的には桜庭と一緒にニヒヒと笑い合う終わり方は、疲れて帰ってきた金曜日の深夜に癒しを与えてくれた。
4月、5月には映画2作品への出演が続く。中でも、特筆したいのが『愛がなんだ』での葉子としての演技だ。『ボロ宿』は深川にとって新境地の役柄ではあったものの、どこか『パンバス』にも通ずる癒しの部分があった。しかし、『愛がなんだ』での深川の初登場は、自分に好意を持つ仲原(若葉竜也)に、キャミソール姿で「仲原、ビール買ってきて」と投げかけるというもの。
『愛がなんだ』という作品自体が男女のあいまいな距離間をテーマとしており、「28歳、女優、深川麻衣」としての等身大の女性、かつて“聖母”と呼ばれた彼女が膜を破り、妖艶さを纏った深川がいるように思えた。監督を務めたのは、『パンバス』に続き彼女をキャストに迎えた、深川をよく知る今泉力哉。初の茶髪、でこ出しというビジュアル的にも大人の女性を演じた作品である。