『ジェミニマン』は映画史の分岐点に? 90年代から難航し続けたプロジェクトを実現させた最新技術

『ジェミニマン』に結集した技術の粋とは

歴史の証人に

 デジタルで生まれた若き日のウィルに違和感がないとは言えません。生身の人間を見ることに慣れている私たちの目は、長時間見ているとデジタルモデルの「非人間味」を目敏く見つけてしまいます。しかし、『ジェミニマン』が今の映画テックの最高峰であり、この映画を踏まえて技術を進歩させていくのは間違いないでしょう。

 今後、映画は今以上に体験型になります。そうなると、『ジェミニマン』は、CGを初めて導入した映画『トロン』(1982年)や、CG映画の金字塔と言われる『ジュラシック・パーク』(1993年)、AIによる群衆シミュレーションをつかった『ワールド・ウォーZ』(2013年)といった作品同様、何かにつけて話題にのぼるでしょう。その時に『ジェミニマン』の何を指しているのか、何が悪く何が良かったのかを理解できているかは重要です。本作は単なる娯楽の粋を超えた、映画史を語る上で外せない分岐点映画となるはずなのです。それに、現時点では『ジェミニマン』以降、60、120フレーム上映作品は予定されていないので、こんな経験ができるのは最初で最後になるかもしれないのです。 

 もちろん、娯楽の帝王ジェリー・ブラッカイマーがプロデュースしていることとあって、娯楽性もバッチリです。ブラッカイマーが考える娯楽性の高い作品とは、鑑賞中の2時間は頭を空っぽにして現実の煩わしさから解放してくれる作品です。作品として素晴らしいかどうかではなく、鑑賞した観客がどれくらい日常を忘れて没頭できるかに重点を置いているのです。『ジェミニマン』にも、ブラッカイマーのスピリットはしっかり入っています。

 見終わった後に複雑な気持ちになるかもしれません。私はなりました。しかし、見る前と見終わった後では、今後の映画に対する見方が変わったのを感じます。おそらく、『スター・ウォーズ』クラシック三部作をリアルタイムで劇場鑑賞した世代、『ジュラシック・パーク』をリアルタイムで劇場鑑賞した世代と表現されるように、将来的には『ジェミニマン』を3D + in HFRで劇場鑑賞した世代と言われる日が来るかもしれません。歴史の証人になるチャンスを逃す手はないでしょう。 

■中川真知子
ライター。1981年生まれ。サンタモニカカレッジ映画学部卒業。好きなジャンルはホラー映画。尊敬する人はアーノルド・シュワルツェネッガー。GIZMODO JAPANで主に映画インタビューを担当。Twitter

■公開情報
『ジェミニマン』
全国公開中
監督:アン・リー
製作:ジェリー・ブラッカイマー
出演:ウィル・スミス、メアリー・エリザベス・ウィンステッド、クライブ・オーウェン、ベネディクト・ウォン
配給:東和ピクチャーズ
(c)2019 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:geminiman.jp

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