「コンテンツ立国」を目指すためには必須? デジタル時代の日本における、映像アーカイブの重要性

中間成果物のアーカイブも重要

 最後に作品のアーカイブだけではなく、作品作りの過程で生まれる中間成果物のアーカイブの重要性にも触れたい。映画は総合芸術を言われるが、1本の作品つくり美術品や小道具、特撮衣装やミニチュアセットなどたくさんのものが生まれるが、それらもまた重要な資料である。

 実写映画だけでなく、アニメ作品においても原画という大量の中間成果物をどのようにアーカイブするかは議論になっている。体系的に保存を行う制度は確立されておらず、現状は各スタジオが自社で管理するか、マンガ・アニメミュージアムに寄贈するなどの措置は一部で取られているものの、保管にかかるコストは中長期業の多いアニメ制作会社にとって大きな悩みの種だろう。プロダクションI.Gなどは自社で独自にアニメアーカイブグループという専門部署を持っているが、こうした会社はまだ少数だ(参照:“アニメアーカイブ”の現状と課題は? プロダクションI.G所属の“アーカイブ担当”にインタビュー)。

 原画などの中間成果物は後のコンテンツ研究への寄与の他、アニメ制作の教育資料にもなり得るし、原画展やグッズ制作などの版権ビジネスの活性化も生み出す。完成作品の保存も重要だが、同じくらい中間成果物の保存も大切なことなのだ。

 中間成果物と呼んでいいか議論の余地もあるが、脚本のアーカイブも重要な課題だ。映画でもテレビでも脚本や台本と呼ばれるものは制作が終われば用済みとなり、捨てられてしまいうことが多い。これらは法的には「図書」ではないので、国会図書館への納本義務もない。

 脚本には完成された作品にはない情報も載っている。例えば撮影監督の使用した脚本には、どのように撮るかのプランの書き込みなどが残されているし、役者の使用した脚本には演技プランに関するメモ書きが書かれていたりする。さらには完成台本だけでなく、初稿から決定稿に至る全てのバージョンを網羅的にアーカイブできれば、作品がどのようなプロセスを経てブラッシュアップされたのかを学べる。それらの脚本をアーカイブすることは、作品の制作過程をアーカイブすることであり、一層深いコンテンツ研究に繋がり、それを後進の育成のための豊かな教材にすることができるのだ。

 脚本アーカイブを推進する団体として、一般社団法人日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアムがある。ここは脚本を収集し、川崎市市民ミュージアムなどに寄贈したり、収集した脚本のデジタルデータベースの作成などを行っている。同コンソーシアムの特別委員会委員長の香取俊介氏によると、フランスでは放送された全テレビ番組とともに全脚本を保存する取り組みがなされているそうだ。韓国では2008年に「韓国放送台本デジタル図書館」が設立されたそうで、この点についても日本は諸外国に大きく遅れを取っているとのことだ(GALAC 2009年7月号、P38)。

 アーカイブによって、昔の名作に触れる機会が生まれることも当然重要だ。しかし、アーカイブは、単に昔の映画が観られるようにすること以上の価値を生むことができる。アーカイブは新しい作品作りに貢献し、教育資料ともなり、文化発展の重要な土台となる。日本が真にコンテンツ立国を目指すならば、アーカイブの充実は当然のこととして行われなくてはならない。グローバルなコンテンツ競争に勝ち抜くためにもアーカイブ事業は一層推進される必要があるだろう。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

※野崎まどの「崎」は「たつさき」が正式表記

■公開情報
『HELLO WORLD』
全国公開中
監督:伊藤智彦
声の出演:北村匠海、松坂桃李、浜辺美波
脚本:野崎まど
キャラクターデザイン:堀口悠紀子
アニメーション制作:グラフィニカ
配給:東宝(株)
(c)2019「HELLO WORLD」製作委員会
公式サイト:https://hello-world-movie.com/

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