『なつぞら』なつの姿から思う、子育ての“正しさ” 朝ドラの母親たちに寄せて

 『なつぞら』(NHK総合)の主人公・なつ(広瀬すず)の家の本棚にある、「子育てについて」という分厚い本。リビングの目立つ場所に置かれ、何度も手に取ったのであろう雰囲気を感じる。夜遅くまで仕事をし、時には子どもを預けて仕事に向かわなければいけない後ろめたさを感じているなつ。本はきっと、子育てに迷いを抱えるなつの心の拠り所になっただろう。しかし、その本の中に書かれた言葉は果たして「正解」なのだろうか。

 なつがアニメーターとして軌道に乗ってきた『なつぞら』後半戦、なつにとって仕事と子育ての両立というのは大きな葛藤として描かれた。まだ共働き世帯が少なく、寿退社も当たり前の時代。出産を機に、女性は役職を解かれたり、職を失ったりすることもあった時代に、なつは東洋動画でアニメーターとして働き続けるために、さらに作画監督という重大なポジションを担うために、産後6週間で職場復帰をした。代わりに旦那である一久さん(中川大志)が在宅で仕事をしながら、子どもをみることに。一久さんも仕事復帰した後は、元同僚の茜さん(渡辺麻友)を頼り、北海道の実家にも助けてもらいながらみんなで子どもを育てていった。

 なつの子育てに対する姿勢に、ネット上ではさまざまな意見が飛び交った。現代は「子育ては女性がやるもの」という時代ではなく、「子育ては夫婦と周りの人たちと協力しながらやるもの」という認識に変わっている。さらに世界に目を向けると、育休制度がないアメリカでは産後すぐに女性が職場復帰することは往々にしてあり、北欧では夫婦ともに育休がとれる制度が整っている地域もある。仕事と子育てのバランスというのは、個々人の価値観にゆだねられるものだ。

 最近の朝ドラでは、さまざまな子育ての価値観が描かれる。なつのように、子育てへの引け目を感じるほど仕事に熱中している姿は、『あさが来た』のあさ(波瑠)にも見受けられた。娘の優(増田光桜)から「お母ちゃんなんて!」と反発される時期が、なつにもいずれやってくるだろうけれど、母のたくましい背中を見て子どもは多くを学んでいるようにも見えた。

 『とと姉ちゃん』では仕事に身を置き、「暮らしの手帖」にすべてを捧げる主人公・常子(高畑充希)の姿が印象的だった。常子は結婚を選ばなかったが、社員や身の回りの人々、自分の家族など守りたい人たちのために奮闘する姿は、子育てと仕事の両立に通ずるところがあった。子育てに充分な時間をかけて、一対一で向き合う主人公ももちろんいた。どんな母親も、その選択が喜びを生むのであれば、自分らしく居られるのであればいいのだろうと彼女たちの生き方を見ていて思う。

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