『ワイスピ』シリーズに“新たな広い視野”!? 『スーパーコンボ』に引き継がれた最も大きな価値観
そして本作は、『ワイルド・スピード』シリーズの最も大きな価値観を引き継ぐことを忘れていない。それは、“地元サイコー、ファミリー最強”という概念である。本線に必ずあったのは、ドムとロサンゼルスの地元の仲間たちを中心に構成された“ファミリー”の絆を描くシーンだ。カスタムカーに乗って集まった仲間たちが、バーベキューを囲み、ライムを絞ったコロナビールを飲みながらバカ話で笑い合う……。「地元に生まれて良かった、仲間たちと出会えて良かった」、このようにヤンキー体質を肯定するようなシーンがあることで、『ワイルド・スピード』シリーズは、同じ価値観を持つ人々から支持されることになったといえよう。
本作では、犯罪を生業(なりわい)としてきたイギリスのショウの家族、そしてサモアに居を構えるホブスの大家族が登場し、ロサンゼルス以外の地元とファミリーを描いている。大きな特徴は、このドウェイン・ジョンソンの本当のルーツであるサモアが、大きくクローズアップされている点であろう。
いままでシリーズで描かれてきた“ファミリー”は、アフリカ系やカリブ系、アジア系など様々な人種が含まれていたとはいえ、その中心はロサンゼルスに象徴されるアメリカの都市部であった。このように、輪の内側の良さを賛美する価値観というのは、一歩間違うと、外側の人々を排斥する思想とつながる危険もある。だが本作では、“ファミリー”がいろんな国や地域に存在し、それぞれの場所が“サイコー”であるということが示されている。
ドウェイン・ジョンソンとジェイソン・ステイサムが、本作の製作陣に名を連ねていることから分かるのは、本作の利益がより主演二人に配分されるようにするという契約を出演の条件にしているということである。だが同時に、それぞれ外側にルーツを持つ二人の世界観が、より本作に投影されることにもなったといえよう。そして『ワイルド・スピード』シリーズに、新たな広い視野を与えているように感じられるのである。そのような内容を大ヒットシリーズとして、世界に発信するということは、想像以上に重要な取り組みなのかもしれない。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■公開情報
『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』
全国公開中
出演:ドウェイン・ジョンソン、ジェイソン・ステイサム、イドリス・エルバ、ヴァネッサ・カービー
監督:デヴィッド・リーチ
脚本:クリス・モーガン
提供:ユニバーサル・ピクチャーズ
配給:東宝東和
(c)UNIVERSAL PICTURES
公式サイト:https://wildspeed-official.jp/