ジョージア州の中絶規制法で揺れる米エンタメ界 撤退表明後の各社の取り組みと経済的課題とは?
このように、数多くのハリウッドのTV/映画会社、そしてハリウッドセレブまでがこの法案に反対している。一方で、ジョージア州に対して背を向けることで、各社、そしてジョージア州にとっても経済的な問題が発生することをふまえると、そう簡単に撤退することもできないのが実情だ。
Netflixの人気番組『ストレンジャー・シングス 未知の世界』や『オザークへようこそ』は、これまでほぼ全てジョージア州で手がけてきた。AMCが手がけ、日本ではFOXムービーで放送されている『ウォーキング・デッド』も大部分がジョージア州だった。さらに映画では、『アベンジャーズ』シリーズ、『ブラックパンサー』など、マーベル作品の多くも、その一部をジョージア州で撮影してきている。しかも現在、20以上もTV/映画作品が、法案可決後も撮影中なのだ。その撮影中の作品の中には、クリント・イーストウッド監督作『The Ballad of Richard Jewell』(原題)、ヴェラ・ファーミガ、パトリック・ウィルソン主演の映画『死霊館』シリーズ第3弾、ジェラルド・バトラー主演の『Greenland』(原題)、ジョーダン・ピール監督とJ・J・エイブラムス監督が組んだ『Lovecraft Country』(原題)などが撮影されている。つまり、ハリウッド側でも「ハートビート法案」に表向きは反対しながらも、ジョージアで撮影しなければいけない、それぞれの事情があるようだ。
だが、その一方で、人気ドラマ『ハンドメイズ・テイル 侍女の物語』のリード・モラーノが監督を務めるアマゾン・スタジオの新ドラマ『The Power』(原題)は、同州でロケーション・スカウトをしていたスタッフを呼び戻し、新たに撮影地を探す決定を下している。さらに、ジョージア州で撮影しながらも、新たな道を切り開こうとしているのが、ジョーダン・ピール監督とJ・J・エイブラムス監督で、彼の新作『Lovecraft Country』は、上記に挙げた通りジョージア州で撮影されているが、彼ら二人の監督はもしこの法案が施行され、撮影地を他の州に移したならば、自分たちが受け取った報酬の一部を、アメリカ自由人権協会や中絶権擁護諸団体に寄付することを表明した。
このように、ハリウッドではそれぞれの事情で異なった対応が取られているが、現在、ハリウッドの多くの会社やセレブは、アメリカ自由人権協会(ACLU)と組んで、法案の撤回に向けて裁判所で争う姿勢を表明している。今のところ、2020の1月に施行されるまで数カ月あり、さらに施行される前に、州裁判所、または連邦裁判所での司法審査の対象になり、裁判所は、司法審査期間中には、施行を遅らせることや、違法であると判明した場合は、最終的に法律を覆すことができることになっている。今後も、州裁判所、または連邦裁判所の対応や、ハリウッド業界の人々の動きにますます注目が集まりそうだ。
参考
・https://www.independent.co.uk/news/world/americas/georgia-boycott-abortion-laws-hollywood-movie-tv-netflix-disney-a9038161.html
・https://www.theatlantic.com/health/archive/2019/06/georgia-abortion-hollywood-boycotts/591106/
・https://www.nbcnews.com/news/us-news/opponents-stringent-georgia-abortion-law-ask-court-block-it-during-n1032881
・https://variety.com/2019/tv/news/netflix-steps-up-middle-east-production-with-third-arabic-original-paranormal-1203226368/
・https://www.11alive.com/article/entertainment/television/programs/the-a-scene/more-than-20-tv-shows-and-movies-in-production-in-georgia/85-f3f73f75-157c-4f3e-a575-610d67c9fdd7
・https://www.dailymail.co.uk/news/article-7056311/Kristen-Wig-Bridesmaids-writer-stop-filming-new-Lionsgate-comedy-Georgia-bill.html
■細木信宏/Nobuhiro Hosoki
海外での映画製作を決意し渡米。フィルムスクールに通った後、テレビ東京ニューヨーク支局の番組「ニュースモーニングサテライト」のアシスタントとして働く。現在はアメリカのプレスとして働き13年目になる。