『ガッチャマン』映像化作品も始動 MCU成功の立役者、ルッソ兄弟の功績と作風を分析

ルッソ兄弟の功績と作風を分析

 この作品でエンターテインメント業界への足がかりを得たルッソ兄弟は、TVドラマやドキュメンタリー作品を製作、続いてオーウェン・ウィルソン主演のコメディ映画『トラブル・マリッジ カレと私とデュプリーの場合』(2006年)を監督している。

 この作品で描かれるのは、オーウェン・ウィルソンが演じるデュプリーという、定職に就いていない、根無し草の自由人が、新婚生活を送る友人の家に泊まりこみ迷惑をかけまくるという物語だ。しかし、社会の枠にはまらない発想によって、会社と家庭との間で悩む友人の力になっていく。

 『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』までに撮られた、これらの作品には、現代社会で正しいと信じられている価値観に疑問を呈するような視点が置かれているという部分が共通している。さらに、富や地位をありがたがるような価値観で動いている社会の規範に従う人々が、どこかに置き忘れてきた“優しさ”に価値を見出している。

 『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』は、陰謀に巻き込まれ孤立無援となるキャプテン・アメリカが、それでも自分の正義を信じ、正しい行いをしようとする姿を描くことで、これまで信じられてきた価値観をときには疑うことが必要だということを表現している。マーベル・スタジオのヒーロー作品は、製作を統括するケヴィン・ファイギの指揮のもと作られているが、なかでもこの作品が力強く、アツいものとなったのは、ルッソ兄弟の作風や社会観が、物語と重なる部分を持っていたからであろう。

 『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』における、強大な力を持った者が弱者を踏みつけにする描写はもとより、悪の側の論理にも一定の説得力を持たせ、観客の価値観を揺るがせることも、もともとのルッソ兄弟の資質を応用したものだ。だからこそ悪と正義の境界が曖昧になる『インフィニティ・ウォー』の内容に、リアリティある不安が立ち上ってくるのである。

 だがやはり、ルッソ兄弟は弱い者や素朴な人々への共感を持った作家である。『アベンジャーズ/エンドゲーム』では、取り返しのつかない事態に陥り、いろいろなものを失ったヒーローたちが身を寄せ合い、それでも精一杯に自分のできることをやろうとする姿が描かれる。もはやヒーローとしてのかつての威厳を失ったものの、善良であろうとする彼らの姿は、『ウェルカム・トゥ・コリンウッド』の登場人物を想起せられる。

 また、自分の力が足りずに、宇宙やアスガルドの民をサノスに蹂躙させてしまったことで、無気力になって家のなかにこもり、ゲームばかりをやっているような無気力に陥ったマイティ・ソーのダメ人間……ならぬダメ神様ぶりは、『トラブル・マリッジ カレと私とデュプリーの場合』におけるデュプリーのウダウダしている姿そのものだ。しかし、この作品では、そんなソーがある人に勇気づけられ立ち直っていく様子を、様々な要素を描かなければならない作品のなかでも、しっかりと扱っている。

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