『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』今再び蘇る理由とは ミュウツーが体現する現代社会の暗部

ミュウツーは現代社会の暗部を照射する

 かといって本作は、『ポケモン』を通ってきた者など、特定の世代だけが楽しめるというものでもない。前作公開時は、いわゆる世紀末であった。阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件といったものが世間を揺るがせ、誰もが戦々恐々としながら新しい時代の到来を夢見ていただろう。今作 『EVOLUTION』が封切られた2019年以前には、またもいくつものカタストロフィに私たちは見舞われ、つねに社会には暗雲が立ち込めている。人間のエゴイスティックさによって造り出され、映画の冒頭から破壊のかぎりを尽くすミュウツーの存在は、前作以上に社会の暗部を浮かび上がらせるメタファーとしての意味を色濃くまとっているようだ。彼の放つイビツな光は、現代社会の暗部を照射するーーそう思わずにはいられない。こういった点が、たんなる“ポケモン世代のノスタルジーをくすぐる”にとどまることのない作品足らしめているといえるのではないだろうか。

 もちろん、フル3DCG化された魅力も多々ある。今年は、ハリウッドで実写化された『名探偵ピカチュウ』が公開された年でもあるが、実写とはまた違い、アニメーションならではのピカチュウの“リアルな毛並み”を確認できる。これもまた、“ポケモン世代”だからこその感動かもしれないが、通常のアニメ版や『名探偵ピカチュウ』とは異なる愛らしさを得ていると思える。それはピカチュウだけでなく、ヒトカゲ、ゼニガメ、フシギダネといった私たちのかつての相棒も立体感を得て、活き活きとした姿で楽しませてくれるだろう。さらには、海の水面の揺れや陽光の輝き、そして本作でもっとも重要なエレメントである「涙」のきらめきが、観る者すべてを冒険へと連れ立ってくれるはずである。

 さて、当時のポケモン少年/少女たちは大人になり、ある者は大切な誰かと出会い、ある者は人の子の親になり、またある者は筆者のようにのらりくらりと……みながこの「時代」をつくり上げている。どうにか、手と手を取り合って、歩んではいけないものだろうか。エンディングテーマは、前作と同様に「風といっしょに」である。21年前と同じく小林幸子のこぶしの効いた歌声に、今回は中川翔子の芯のある朗らかな声が重なる。彼女たちの奏でるハーモニーとともに、そして歌詞にあるように、“また歩きだそう”、そう涙ながらに強く思える余韻を、本作は多くの者に与えるにちがいない。

■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。Twitter

■公開情報
『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』
全国東宝系にてロードショー
声の出演:サトシ/松本梨香 ピカチュウ/大谷育江
ムサシ/林原めぐみ コジロウ/三木眞一郎 ニャース/犬山イヌコ 
ナレーション/石塚運昇
特別出演/市村正親 小林幸子 山寺宏一
主題歌:小林幸子&中川翔子「風といっしょに」(ソニー・ミュージックレコーズ)
原案:田尻智
監督:湯山邦彦・榊原幹典
脚本:首藤剛志
(c)Nintendo・Creatures・GAME FREAK・TV Tokyo・ShoPro・JR Kikaku  
(c)Pokémon (c)2019 ピカチュウプロジェクト
公式サイト:https://www.pokemon-movie.jp/

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