湯浅政明×LDHが生んだアニメーション映画の新たな可能性 『きみと、波にのれたら』の革新性とは

松江哲明の『きみと、波にのれたら』評

 湯浅監督の作品は『マインド・ゲーム』にはじまり、その独特な表現技法で多くの観客を熱狂させてきました。『四畳半神話大系』や『夜は短し歩けよ乙女』『夜明け告げるルーの歌』『DEVILMAN crybaby』など、近年発表している作品は一般的には“格好いい”ではないでしょうか。でも、本作は湯浅監督だけでなくLDH的”格好いい”も加わっています。全編中毒性のある主題歌と共に、ひな子と港が恋人として鍵をつけるベタな恋愛が描かれたかと思えば、嬉しい時に顔が大きくなったり、線の細い腕がダイナミックな構図で身体を動かしたりと独特な画風が随所に散りばめられています。

 私はそんな組み合わせを選んだ製作陣にも賞賛を送りたいです。例えば、Vシネマの時代には黒沢清監督と哀川翔さんをかけ合わせてみたり(『勝手にしやがれ!!』『復讐』シリーズ)、瀬々敬久監督にヤクザ映画を振ってみたり(『超極道』)と、失敗を恐れない姿勢が新たな動きを呼び、作り手の幅を広げ、結果として次の時代へと繋がることは歴史が証明しています。しかしプログラムピクチャーが成立していない今、そんな挑戦的な企画は少なくなりました。優れた監督が、それまでの作風とは違う題材を与えられても、自分の得意な手法を使って作品を完成させてしまうように、『きみと、波にのれたら』にはそんな雰囲気があります。アニメーションが「映画」であることに疑問を持たれなくなった今、かつてのプログラムピクチャーのような勢いが生まれているように思います。

 本作は幸福な「出会い」の映画だと思います。映画の中のカップルだけでなく、湯浅監督とLDHというように。そしてその表現は決して閉じることなく、大きく開かれています。あまりの窓口の広さにキラキラしたものに慣れない私は最初、面食らいましたが、今では「ブルーレイでも観たいな」と思っている自分がいます。つまり、心の中にある普段は閉じている「憧れ」のようなものをこの映画に開けてもらえたのだと思います。

(構成=安田周平)

■松江哲明
1977年、東京生まれの“ドキュメンタリー監督”。99年、日本映画学校卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が文化庁優秀映画賞などを受賞。その後、『童貞。をプロデュース』『あんにょん由美香』など話題作を次々と発表。ミュージシャン前野健太を撮影した2作品『ライブテープ』『トーキョードリフター』や高次脳機能障害を負ったディジュリドゥ奏者、GOMAを描いたドキュメンタリー映画『フラッシュバックメモリーズ3D』も高い評価を得る。2015年にはテレビ東京系ドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』、2017年には『山田孝之のカンヌ映画祭』の監督を山下敦弘とともに務める。最新作はテレビ東京系ドラマ『このマンガがすごい!』。

■公開情報
『きみと、波にのれたら』
全国公開中
監督:湯浅政明
脚本:吉田玲子
音楽:大島ミチル
出演:片寄涼太(GENERATIONS from EXILE TRIBE)、川栄李奈、松本穂香、伊藤健太郎
アニメーション制作:サイエンスSARU
配給:東宝
(c)2019「きみと、波にのれたら」製作委員会
公式サイト:https://kimi-nami.com/
公式Twitter:https://twitter.com/kiminami_movie
公式Instagram:https://www.instagram.com/kiminami_movie

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