世界最大級のアニメの祭典「アヌシー映画祭」、業界への影響力は? 日本アニメの評価を振り返る

日本アニメの活躍度と存在感は

 アニメ大国である日本も、これまでもアヌシーで一定の存在感を放ってきた。初期の頃には、久里洋二や川本喜八郎らが賞を受賞しており、長編部門では宮崎駿の『紅の豚』と高畑勲の『平成狸合戦ぽんぽこ』が最高賞のクリスタル賞を受賞している。

 短編部門で最高賞を獲得したのは、2003年の山村浩二の『頭山』と2008年の加藤久仁生 の『つみきのいえ』の2本。その他短編部門や広告部門で例年いくつかの作品が出品され、受賞もしている。

『夜明け告げるルーのうた』(c)2017ルー製作委員会

 2017年は日本アニメの当たり年と言える。『マインド・ゲーム』がフランスで高く評価されている湯浅政明監督の『夜明け告げるルーのうた』が長編クリスタル賞を受賞し、片渕須直監督の『この世界の片隅に』も審査員賞を受賞している。山田尚子の『聲の形』も出品されていたがこちらは惜しくも受賞を逃している。

 2019年度は長編部門に3本、新設されたコントラシャン部門(革新的・実験的な表現に取り組む長編を対象)に1本の日本映画がノミネートされたが、無冠に終わった。短編部門にも『Dawn of Ape』(水江未来監督)と『Mimi』(深谷莉沙監督)がノミネートされていたが、こちらも受賞はならなかった。

映画『聲の形』(c)大今良時・講談社/映画聲の形製作委員会

 今年の長編クリスタル賞を受賞したのは、先だって開催されたカンヌ国際映画祭の批評家週間でもグランプリを受賞したフランスの『I Lost My Body』だった。カンヌとアヌシー両方で受賞という快挙を成し遂げ、米国アカデミー賞長編アニメーション賞へのノミネートも噂されている。

I LOST MY BODY Clip (France, 2019) Jeremy Clapin Feature

商業性と芸術性の議論の狭間で

 MIFAの年々の拡大や、今年の日本特集、米国大手スタジオの積極的な参加など、アヌシーの商業性はどんどん拡大している。元々、商業主義的な作品とは違う価値を称揚するために芸術的・実験的な短編部門のみで始まったこの映画祭だが、世界の映像市場のアニメーションの存在の拡大とともに、商業性とのバランスを模索するようになってきた。

 そうした動きに対する批判や懸念は毎年のようにあるようだが、映画祭にとって重要なものは商業か芸術か、という議論はどんな映画祭にも起きていること。むしろ、その議論が活性化が映画祭の成長に寄与しているとも言えるかもしれない。本年度の長編クリスタル賞の『I Lost My Body』のトレイラーを観てもらえばわかる通り、芸術性に富んだ作品を評価する姿勢は健在であり、決して商業主義だけに傾倒しているという印象はない。むしろ、その議論の中で芸術性に富んだ作品をどのように商業ルートに乗せるのかという道筋も作られているとも言えるだろう。

 世界のアニメーション市場の発展とともに、アヌシーの存在感は今後も高まり続けるだろう。日本アニメは人材難や労働環境、人口減少やビジネスモデルの変化による国内市場の衰退など、様々な問題に直面する中、より国際的な視野を持っていかねばならない。アヌシーが大々的に特集したように、日本アニメの国際的な注目度は高いが、今後どのような舵取りをしていくべきなのか、アヌシーの動向は日本アニメ産業全体にも大きな影響を与えていくだろう。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■公開情報
『HUMAN LOST 人間失格』
2019年、全世界公開
原案:太宰治『人間失格』より
(c)2019 HUMAN LOST Project
配給:東宝映像事業部

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