【ネタバレあり】『エンドゲーム』に残された謎 アベンジャーズの作戦を科学的視点から読み解く

分岐していく世界たち

 そんな分岐における負の部分について、ブルース・バナーと、『ドクター・ストレンジ』の登場人物であるエンシェント・ワンが、本作のなかで議論する場面がある。バナーは、エンシェント・ワンの持つ、インフィニティ・ストーンの1つであるタイムストーンを渡してほしいと頼み込むが、彼女は首を縦に振らない。なぜなら、エンシェント・ワンは未来を予知する能力を備えており、この後に強大な敵と戦うことになるドクター・ストレンジにタイムストーンが必要になることを知っていたからだ。

 だからタイムストーンがなくなってしまえば、そこから新しい世界が枝分かれして、絶望的な世界が新しく生まれてしまうことになる。インフィニティ・ストーンを手に入れたアベンジャーズの世界にとって、未来は明るいものとなるが、その代償として、絶望の世界を誕生させてしまって、そっちは自分たちの世界じゃないから別にいいやというのでは無責任だろう。だからバナーは、再び過去を訪れタイムストーンを返却することを約束する。アベンジャーズには、適切な時代、適切な場所にそれぞれのインフィニティ・ストーンを返すことで、別の未来を発生させることを最低限に抑える倫理的な義務があるのだ。

 その任務を引き受けたのはキャプテン・アメリカだった。彼はサノスとの決戦の後、様々な時代と場所にインフィニティ・ストーンを返却しに旅立つ。そして、その任務を終えて、ヒーローとして役割ではない、1人の男スティーブ・ロジャースとして自分の人生を生き直す決断をすることになる。

 彼は自分の人生を納得するまで生き抜いた後、もう一度姿を現すことになる。本作の監督ルッソ兄弟は、メディアでのインタビューにおいて、ロジャースは最後にアベンジャーズに合流するため、もう一度ワープを行ったということを示唆している。なぜそれが必要だったのか。それは、本作のラストカットを見れば理解できるだろう。ロジャースは、1人の女性と生きるために過去を改変し、分岐した新しい世界を作り出していたのだ。

 しかし、大勢の命を取り戻すためとはいえ、時間の流れをいくつも生み出してしまったことへの影響はないのだろうか。次に公開される『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』の予告編では、ニック・フューリーが、「あの戦いで別の次元の扉が開いた」と語っている場面がある。このややこしい時間の流れの問題は、まだマーベルのヒーロー映画のなかで継続していくのかもしれない。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『アベンジャーズ/エンドゲーム』
全国公開中
監督:アンソニー・ルッソ&ジョー・ルッソ
製作:ケヴィン・ファイギ
出演:ロバート・ダウニー・Jr.、クリス・ヘムズワース、マーク・ラファロ、クリス・エヴァンス、スカーレット・ヨハンソン、ジェレミー・レナー、ポール・ラッド、ブリー・ラーソン
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)Marvel Studios 2019
公式サイト:https://marvel.disney.co.jp/movie/avengers-endgame.html

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