【ネタバレあり】『エンドゲーム』に残された謎 アベンジャーズの作戦を科学的視点から読み解く

トニー・スタークによる世紀の大発見

 量子世界がわれわれの世界の物理法則と異なる現象を見せるというのは、実際に研究者によって観測されてきた事実である。かつてアインシュタインは、重力が空間や時間を歪ませているという物理法則を見出して「相対性理論」 を完成させた。それは、これまで世界の仕組みがどうなっているのかを秩序立てて説明することに成功した「ニュートン力学」よりも、天体の運動など広い範囲に適用できるという点で、それを凌駕することになった発見であった。とはいえ、そんな「相対性理論」ですら、極小の量子の世界を説明しようとすると齟齬が生じてしまうのである。

 アインシュタインをはじめ、多くの物理学者たちが、ミクロやマクロの世界全ての物理現象を、1つの秩序立った法則によって説明し得るような「統一理論」の完成を目指してきた。しかし、それは未だに道半ばだ。「自分の専門じゃない」と言いつつ協力した、ハルクことブルース・バナーによる、時間を行き来する実験においても、やみくもな方法のせいで、量子世界のタイムトンネルを移動させられたラングは、その度に幼児になったり老人になったりと、悪夢的な現象を体験することになってしまう。量子世界の物理法則が解明されていない以上、それを利用して時間を移動するような行為は、もし可能だとしても危険きわまりないことになってしまうのだ。

 アベンジャーズが試行錯誤を重ねている間、アイアンマンことトニー・スタークも独自に研究を進めていた。そして、表が裏になり、裏が表にもなる「メビウスの輪」のCGモデルが示すように、過去から現在、現在から過去へと、一方通行ではない、秩序立った時間の流れを、量子世界の法則として発見することに成功したのだ。そう、トニー・スタークは、学問の分野においてもヒーローとなっていたのである。もちろん、あくまで物語のなかの話だが。

「時間の輪」と「祖父殺しのパラドックス」

 そんな量子世界の法則を利用した本作の時間移動は、時間を遡る物語を描いてきたハリウッド映画のなかで、先進的な部類に入る。本作では、『ある日どこかで』(1980年)や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)など、時間移動を題材にした、よく知られている映画の名を挙げる。しかし、それらと今回の時間移動は異なることが言及されることで、スコット・ラングは、「名作映画が間違っていたなんて……」と、動揺を隠せなくなってしまう。

 『ある日どこかで』のどこに矛盾があるのだろうか。この作品には、重要なアイテムとして懐中時計が登場する。主人公は老婦人から懐中時計を受け取り、過去にタイムワープをして、それをまた、ある女性に手渡す。その時計が、時代を経てまた主人公に手渡されるのだ。では、この時計はもともと誰が持っていたのだろうか。起点を失ってしまった時計は、現在と過去をぐるぐると永遠に回り続けることになる。このような矛盾をはらんだ現象は、“時間の輪”とも呼ばれる。

 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』では、主人公のマーティが過去に行ったことで、若き日の母親がマーティに恋をしてしまうというトラブルが発生してしまう。このままでは母親と父親が結ばれず、マーティは“生まれないこと”になってしまう。それを証明するように、両親の関係が悪くなると、マーティは消えかけてしまうことになる。

 しかし、ここにも矛盾がある。もしそれでマーティの存在が消えてしまうのだったら、未来からやってきて両親の関係を壊してしまったマーティもまた最初から存在しなかったことになるはずではないか。つまり、マーティは絶対に両親の関係を壊すことはできなくなってしまう。これは、「祖父殺しのパラドックス」と呼ばれている矛盾だ。これら時間移動におけるいろいろな矛盾というのは、“過去を遡ることなど不可能だ”ということを証明する証拠であるとされてきた。

 本作においても、インフィニティ・ストーンを集めに未来から来たアベンジャーズが、少なからず過去に影響を与えてしまっている。キャプテン・アメリカが悪の組織から仲間だと思われることになったり、ロキは収監されず逃げ出してしまっているのだ。このままでは未来が変化し、未来のアベンジャーズが同じメンバーで同じように未来からやってくるということ自体が怪しくなってくる。つまり、「祖父殺しのパラドックス」に似た矛盾が発生してしまうことになる。

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