松坂桃李の振り幅の広さがマッチ 『居眠り磐音』の魅力はオーソドックスな手堅さにアリ
一方、磐音に立ち塞がる悪役サイドも安定の「悪」。悪の用心棒を演じるのは、今や新世代悪役俳優の筆頭と化した波岡一喜と阿部亮平。浪岡はニヒルな剣鬼を、阿部は「ヒャッハー!」ノリの狂戦士を演じ、それぞれ絵に描いたような「悪」を演じ切っている。そんな2人を率いる悪の親玉を演じる柄本明は、間違いなく本作のMVPだろう。エンターテインメントにおいて勧善懲悪を成立させるには、悪が悪でなければならない。観客に「こいつを斬り殺せ!」「斬り殺してよかった!」と思わせるのが悪役の役目だ。柄本明はこの役目を完璧に果たしている。「おぬしも悪よのう」系の直接は戦わない悪役なのだが、他の悪役から頭一つ突き抜けた腐れ外道を怪演。最後の最後まで粘着質かつ強烈なタチの悪さで魅せてくれる。なお、柄本明の息子である柄本佑も出演しており、こちらもこちらで大変なことになってしまうので必見だ。
本作は極めてオーソドックスな作品だ。殺陣も『るろうに剣心』シリーズ(2012年~)のような香港スタイルではなく、文字通り地に足のついた「チャンバラ」である。悲劇とユーモアがあり、勧善懲悪で、最後は続編への期待と引きで〆る。特別なことはしていないが、その手堅さが本作の個性である。予定調和ともいえるが、それが何よりの魅力になっている。とりあえず続編は作ってほしいし、できることなら1年に1本は公開される年中行事に、往年の『男はつらいよ』(1969年)的なシリーズになってほしい。それだけのポテンシャルは十分にある1本だ。
■加藤よしき
昼間は会社員、夜は映画ライター。「リアルサウンド」「映画秘宝」本誌やムックに寄稿しています。最近、会社に居場所がありません。Twitter
■公開情報
『居眠り磐音』
5月17日(金)全国公開
原作:佐伯泰英『居眠り磐音 決定版』(文春文庫刊)
出演:松坂桃李、木村文乃、芳根京子、柄本佑、杉野遥亮、佐々木蔵之介、陣内孝則、谷原章介、中村梅雀、柄本明ほか
監督:本木克英
脚本:藤本有紀
音楽:高見優
配給:松竹
製作:「居眠り磐音」製作委員会
(c)2019映画「居眠り磐音」製作委員会
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