特集上映、開催中! 『仁義なき戦い』『バトル・ロワイアル』など深作欣二監督の魅力を再考する

 筆者は当時小学6年生ですでに生粋の映画少年だったわけだが、レイティングシステムの存在は知っていたとはいえ、成人映画館でなければくぐり抜けてきた経験と、入れるに違いないという絶対的な自信があったので、様々な策を講じて幾度も入場することに成功した(具体的にはあらかじめ前売り券を購入し、年齢チェックが手薄になりがちな混雑時になだれ込むように入場したり、銀座まで父親を引っ張って切符を買わせたこともあった)。“観てもいい”と定義された年齢になるまでの数年間(深作監督が亡くなった後の三百人劇場や新・文芸坐での特集上映の頃もまだ達していなかったわけだが)に、何十回とこの作品を観ては、その度に「何故この作品を中学生が“観てはいけない”のだろうか」という疑問を抱いていた。

 たしかに、過度な流血や首が飛ぶシーンもあれば凄惨な殺傷シーンもあるが、それは他のハリウッド映画でも頻繁に見受けられる程度のものだ。もっぱら映倫の審査基準について考察すれば15歳未満鑑賞不可となることも今ではすんなり納得できるのだが、その当事者であった時分にはそうはいかないものだ。しかしながら、同作の公開時に出版されたメイキング本の「バトル・ロワイアル・インサイダー(BRI)」(太田出版刊)の中には深作監督と脚本・プロデューサーの深作健太が映倫の審査委員と議論した内容が記されており、それを読んである程度の合点がいった。“観てはいけない”映画など本来あるはずがないが、自主規制を敷く側のロジックも把握しておこうと子供ながらに考えたわけだ。もっとも、作り手がどのような意図を持って描写したのか、それが観客に伝わらない限り、誤解されてしまうというのは映画に限った話ではない。視覚的にも聴覚的にも、その与えられた上映時間の中でそれをいかにして観客に提示するのかというのが映画の宿命である。とはいえ同作に関しては、前もって生じられた先入観によってスクリーンに映し出されるすべてが歪められた状態で届いてしまったようにも思える。

 深作監督は同作に、自身の戦争体験を重ね合わせているのだと、当時様々なところで語っていた。前述の『BRI』に掲載されているインタビューで「戦争は終わったけれども、戦争そのものがもっていたバイオレンスな感覚というのはくすぶり続けている」と語っている。また、アクション映画はゲーム性の強いものであり、監督の十八番であるバイオレンス映画は自己の肉体に引き寄せてドラマを作り上げるものであると定義している。劇中に登場する中学生たちは皆、誰かを殺さなければ自分が殺されてしまうというシチュエーションの中で蠢き回る。誰も殺さずに生き残るためにはどうするべきかと葛藤する主人公に、生き残るために何の抵抗もなしに殺していく者や、自ら死を選ぶ者、仲間たちと脱出を試みようとする者、そして想いを寄せる相手を探し守ろうとする者。理不尽な戦争という暴力に、半ば強制的に身を置かれてしまった若者たちが、それでも生きようとする姿が現代の、極めて空想的なプロットの中で積み重ねられていくのだ。

 そこにあるのは、『仁義なき戦い』の頃やそれ以前から深作監督の映画に根付く暴力への絶対的な批判にほかならない。暴力でしか生きる術を見出せない人間が味わう哀しさや苦しさ。あらかじめ“善”と“悪”が決め打ちされることなく、その両者が1人の人間の中だけで常に表裏一体の関係性を保ちながら右往左往していく、そうした人間描写のリアルが毅然と画面に表れている。登場人物のほとんどが命を落としながらも、その中に誰1人としてゲーム感覚や作品の都合で命を落とす者は映し出されていない。けれども、表面的な部分で語られてしまうのは、やはり深作監督の映画らしく、それがどこまでも活劇というスタイルの中で描かれてしまっているからなのかもしれない。

 もう『バトル・ロワイアル』公開後に生まれた世代でも“観てもいい”年齢になっている今(しかもニュープリントで公開当時のような画面を味わえるとなればなおさらに)、もう一度この20世紀終わりの日本を騒然とさせた青春映画が現代社会に投げかけるメッセージを考える必要があるのではないだろうか。同作以外にも深作監督作品に込められたテーマは、時代を問わず、人間が存在する限り通用する普遍的なものであることは間違いない。 

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■開催概要
「映画監督 深作欣二」
2019年4月23日(火)〜5月26日(日)(月曜休館)
国立映画アーカイブ 長瀬記念ホール OZU(2階)
料金:一般520円/高校・大学生・シニア310円/小・中学生100円/
障害者(付添者は原則1名まで)、国立映画アーカイブのキャンパスメンバーズは無料
*チケットぴあにて全上映回の前売券(全席自由席・各100席分)を販売中。[Pコード:559-795]
公式サイト:https://www.nfaj.go.jp/exhibition/fukasaku201903/

メイン画像=『バトル・ロワイアル』(c)2000「バトル・ロワイアル」製作委員会

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