水谷豊×中山麻聖×石田法嗣『轢き逃げ』鼎談 水谷「今だからこういう作品を作ることができた」

水谷「『今しかないもの』『今だからできること』を目指せばいい」

ーー「次の世代の役者を育てたい」という思いも強いんじゃないですか?

水谷:やっぱりそれもあります。これだけ長くやってきてーー自分が大変だったとはあまり思わないんですけど(苦笑)ーー客観的に見て役者の仕事というのは大変な仕事だと思うんですよ。いろんなところにチャンスが転がっているようでなかなか転がってなかったりしますし、だからこそチャンスを手にしたら、ものにしてほしいと思いますし。それは同じ現場を経験した役者の皆さんに対して全員に思うことですけど、特にこの2人に関しては今回こうして深く付き合うことができたので、なおさら強く思いますね。

ーーこれはいつの時代にもあることだと思いますが、「昔の日本映画界は良かった」みたいな物言いがありますよね。特に役者の場合はーーまさに水谷さんもその一人ですがーー個性的な役者さんがたくさんいて、最近は小粒になったみたいなこともよく言われたりするわけですが。

水谷:日本映画にはここまでいろんな時代があって、その時代を作ってきた日本の社会があったわけですけど、それは人間が作ってきた時代であって、人間が作ってきた社会だったわけです。そう考えると、すべては人間が作ってきたものであって。確かに、昔に比べて今はつまらない時代になったっていう側面もあるのかもしれませんが、その一方で必ず今にしかないもの、今だからできることっていうのがあるんです。だから、今を生きている人間は、その「今しかないもの」「今だからできること」を目指せばいいと思うんですよ。だから、あまり昔を懐かしがることに意識を向けても仕方がないと思うんですね。

ーー中山さんと石田さんにとって、今回の『轢き逃げ』での経験は、今後の役者人生にどのような影響を与えていくことになりそうですか?

中山:生きていく上で、根本として必要なことを教えてもらった気がしています。最初に水谷さんから「自分の価値観に固執しないで、常にフラットな状態でいてほしい」と言われたんですけど、それは役者としてだけでなくて、人間としても一番必要なことだと気づかせていただきました。今後の自分にとって支えになる、糧となる言葉だなって。

石田:『轢き逃げ』では、今まで自分がやってきたことが通用しない現場があるんだなってことを痛感したんですね。役について考えて持ってきたことを、最初に水谷さんから「まず壊していこう」と言われたことで、現場で役を作り上げることの大切さを教えてもらって。『轢き逃げ』の後、撮影の直前まではフラットでいて、カメラの前に立った時に役を作り上げていくってことをやるようになったら、すごく気持ちが楽になったんです。この作品では、そんなふうに役を演じるということについての自分の考え方が変わるようなきっかけがたくさんありましたね。

ーーちょっと気が早いですけど、これからも監督としてコンスタントに作品を撮り続けてくれることを水谷さんに期待していてもいいですか?

水谷:はい。周りが許してくれればですけどね(笑)。

ーー1作目と2作目でまったく違うジャンルの作品を撮られたわけで、次もどんなジャンルの作品を撮るのかまったく予測がつかないのですが。

水谷:嫌いなジャンルというのがないんですよ。だから、もし次もあるとしたら、まずは「どんなジャンルの作品を撮ろうか?」ってところから始まるんです。そういうことを自由に考えるのが、本当に楽しいですね。今回、現場でこの2人にも言ったみたいですけど、自分自身、自分の狭い価値観に縛られないで次のことを考えていきたいと思ってます。

ーー『轢き逃げ』のスリラー的な描写を観てふと思ったのは、いつか水谷さんの撮るホラー映画を観てみたいなって(笑)。

水谷:ハハハッ! ホラーも嫌いではないですよ。人間のやっていることに嫌いなことはないので(笑)。

(取材・文=宇野維正/写真=服部健太郎)

『轢き逃げ -最高の最悪な日-』予告編

■公開情報
『轢き逃げ -最高の最悪な日-』
全国公開中
監督・脚本:水谷豊
出演:中山麻聖、石田法嗣、小林涼子、毎熊克哉、水谷豊、檀ふみ、岸部一徳
配給:東映
(c)2019映画「轢き逃げ」製作委員会
公式サイト:http://www.hikinige-movie.com/

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