令和最初の“ホームドラマ”ーー『きのう何食べた?』が描くものを、原作との違いから考える

 西島秀俊、内野聖陽主演のドラマ24『きのう何食べた?』(テレビ東京系)が絶賛を集めている。原作はよしながふみの人気コミック。40代半ばの同性カップルと彼らを取り巻く人々の機微を、日々の食事を中心に描いている。

 好調の大きな要因は、原作ファンの心を鷲掴みにした丁寧なキャスティングと、それに応える演者たちの好演ぶりだろう。まさかテレビ東京の深夜ドラマに西島秀俊が主演するとは思わなかったし、なにより内野聖陽の登場人物への憑依ぶりがすさまじい。西島が演じるシロさんと内野が演じるケンジの微笑ましいやりとりは、原作ファン以外の視聴者もとりこにしている。

 ところで先日、とある原作ファンからこんな声を聞いた。「ドラマのシロさんはデレすぎる。原作のシロさんはあんなに笑わない」――というものだ。

 たしかにそうかもしれない。原作1巻のシロさんは、もっとピリピリしている。ドラマのオープニングには、しょうが焼きをつくりながら笑顔を見せるシロさんが登場するが、原作の1巻や2巻でシロさんがあんな柔和な笑顔を見せるシーンはほとんどない。一方、ドラマで西島が演じるシロさんは、ケンジに対して頻繁に笑顔を見せる。

 これには理由がある。原作が始まったのは今から12年前の2007年。連載を重ねるごとに登場人物は年を重ね、連載開始当時40代前半だったシロさんとケンジはすでに50歳を超えた。その間、大きく変化したのはシロさんのほうである。周囲から同性愛者に見られないかどうかを異様に気にしてピリピリしていたシロさんは、徐々にケンジと2人で街を歩いても平気になり、表情も柔らかくなっていく。よしながふみは「経年変化を描くのが本当に好きなんですよ」と語っている(好書好日/4月5日)。

 ドラマも季節をまたいで2人の生活が描かれるが、「変化」を描くことが主眼ではないようだ。ドラマでは、むしろ「変化しないもの」を描いているのではないだろうか。

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