『なつぞら』広瀬すずは“かぐや姫”のよう 2つの家族と夢に、なつはどう向き合う?
泰樹となつの関係をポポロとペチカの関係に置き換えてみる。ペチカさえいればいいと、彼女を誰にも嫁がせないようにするポポロの姿が、予言のように泰樹と重なるのである。なつの意志を尊重すると言いながらも、天陽の家に嫁ぐことに反対し、なつと兄妹同然に育った泰樹の孫の照男(清原翔)と結婚させることで、なつは「一生この家にいることなる」と泰樹は語る。そこには、どこにも行かせたくないというなつへの愛情と、なつたちにバター作りの夢を託すという彼自身の夢が渦巻いている。
数々の名言を連発し視聴者を泣かせ、時にボソッと呟く言葉のキュートさで笑わせ、このドラマの根幹を担っているとも言える人格者・泰樹の、愛ゆえの束縛という思わぬ側面。1人だけ労働もせず減らず口ばかり利いている長女・夕見子(福地桃子)の、自由気儘ではあるが、常に先進的で客観的な台詞もまた、牧歌的で美しい田舎暮らしを絵に描いたような農耕一家・柴田家の隠された側面を見せる重要な役割を持っている。当時は特に、決して珍しいことではなかっただろう、後継者を巡る日本の家と個人の問題を描くと共に、親の夢と子どもの夢の哀しいすれ違いを、リアリティと共感を持って示しているのである。
心憎いことに、なつはアニメーションという夢に触れるのと同じタイミングで、泰樹の夢であるバター作りの夢にも触れる。2つの夢はこれまで常に並行して描かれてきた。柴田家の期待に応え続け、そのことに喜びを感じていたなつは、自分の夢もまた泰樹の夢であってもいいと、これまでの彼女なら思うだろう。
咲太郎となつの兄妹が切っても切れない特別な関係で結ばれているのと同じように、泰樹となつの関係も、祖父と孫、師匠と弟子以上に特別な関係で結ばれている。2つの夢と、彼女が愛する2人の人物、2つの土地のそれぞれの家族の物語は、密接に絡み合う。
なつは、どちらも手離し難い過去と現在、2つの家族とそれがもたらす幸せと、なつ自身の夢と泰樹と共に見る夢という2つの事柄の間を揺れ動くことになる。そのどちらかを選ばなければならないよう、やがて物語はなつに迫るのだろう。それを想像するだけで、泰樹ファンとしては今から胸が締め付けられるのであるが、内村光良演じるなつの父親と共にただ見守るしかあるまい。そして改めて、川村屋の料理を待つ間、楽しみすぎて思わず身体を小さく震わせるほど純粋な少女の人生を毎朝見つめることができる幸せを、ひしひしと感じるのである。
■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。
■放送情報
連続テレビ小説『なつぞら』
4月1日(月)〜全156回
作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人/岡田将生、吉沢亮/安田顕、音尾琢真/小林綾子、高畑淳子、草刈正雄ほか
制作統括:磯智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中正、渡辺哲也ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/natsuzora/