立川シネマシティ・遠山武志の“娯楽の設計”第37回
映画料金はもっと自由になれるか? TOHOシネマズ料金改定を機に考える
映画館が「より良く観たい人が観る場所」に
そうなると映画館は、設備に十分にお金を掛けなければ戦っていけません。特に、近隣にも映画館がいくつもあるような都市部では、より競争が激しくなります。80年代と現在では、映画館を作るコストや維持費は全然違います。
ところが、映画料金は高い高い、と言われるわけです。レンタルビデオなら旧作100円、駄菓子かよ、というレベルの安さで観られるのですから、映画館はとてつもなく高く感じられます。さらにここに配信での鑑賞も現在は可能となりました。だから上げられない。それどころか、ポイントカードを始めたり、独自の割引を作ったりして、値下げをしなければならない状況です。
その対応策として出てきたのが、IMAXとか4D系、DOLBY CINEMAなどの特別な上映方式と、プレミアシートのように呼ばれる高級座席の登場です。はっきりわかる高級感を出して、納得できる追加料金を取ることで批判されない値上げを行ってきたわけです。だいぶ下火になってしまいましたが3D映画もその一環ですね。
その証拠に、これだけいろいろな割引が増えたにも関わらず、近年の平均客単価はじわじわ上がっています(映画製作者連盟HP参照)。平均客単価に、特別上映館やプレミアシートの追加金額がすべて反映されているとは思えませんので、映画館収入ベースでは実際はもっと上がっているかと思います。
年々、映画を映画館で観る人の割合は微減しています(2018年7月時点/NTTコム リサーチ調べ参照) 。しかし入場者数は増えています。これで現在の映画館が「より良く観たい人が観る場所」になっている傾向は明白かと思います。
かつては、いつ入っても、いつ出て行ってもよかった暇つぶし場所の代表格だった映画館は、文化的地位が向上して、演劇やコンサートのようにちゃんと楽しむものになってきました。
お客様が求めるマナーも、それらと同様のレベルに近づいて来ていますし、令和も2ケタになるころには、途中入場厳禁、上映中飲食禁止も珍しくなくなっているかも知れません。僕はタイミングを見計らって仕掛けようと思ってますよ、まずは作品によって、というところから始めて。
つまり、いずれにせよ値上げは避け難かったと思います。今後のお客様のニーズに応えていくためには「より良く観られる場所」に変えていかなければならない。その先陣を切ってもらえたことは、同業者としてはありがたいです。
ただ、ひとつ僕が疑念に思ったのは、これ全国一斉値上げでなければならないのか、という点です(ただしTOHOシネマズ公式サイトによると、劇場によって料金設定が異なる場合がある、とのこと)。