大沢たかおが与えた“大きな可能性” 『キングダム』は“本気度”の高さが感じられる実写化作品に

『キングダム』大沢たかおに見る本気度

 漫画の実写化作品では、そこにリアリティを持たせるため、漫画のキャラクターのしぐさを、より自然な動作や表現に解釈し直そうとするのが普通だ。それが常識的な判断である。実際に大沢以外の出演者たちは、熱演しつつもその姿勢で臨んでいるように見える。本作の、馬上で激走しながら怪しくほほえむ王騎の表情を見てほしい。もともと異様なキャラクターだが、原作よりもすごい表情で笑っているのだ。その、底知れぬ狂気。本作で唯一、王騎だけが、原作よりもヤバい奴になっているのである。

 思えば、原作で最も強い印象を残し、自分だけの判断で、超然とした態度をとる王騎のキャラクターこそ、大沢たかおの演技をそのまま具現化した存在だといえないだろうか。その意味では、王騎役は、常識にとらわれない大沢が最も輝ける役どころであり、悪人でもないが善人ではけっしてない、人を殺し天下に名を馳せる人間の狂気をさらに深化させることで、複雑さを発生させることに成功している。ここで本作は実写化作品として存在する意義を発生させ得たと感じるのである。

 トレードマークでもある大きな矛を振るい、風圧だけで兵を何人も吹き飛ばしてしまう、まさに「JET STREAM(ジェット・ストリーム)」(大沢が5代目のパーソナリティーを務める長寿ラジオ番組)と呼びたくなるようなカリスマ的な必殺技も飛び出し、本作は実写映画としての価値を作り出した。大沢たかおという“劇薬”が光を放つことで、本作に非凡な印象が加わったのである。

 原作では、この後描かれる戦のなかで、王騎本人によって「戦は武将のもの」という将軍論が語られる。兵隊たちが集まり、堅実な仕事をしたとしても、それはあくまで総合力を高めるだけで、“旗印”とはならない。圧倒的な演出力を持った監督でもいい、スター俳優でもいい。集結した総合力を生かすも殺すも、それに意味を持たせる「将軍」のような、象徴となり名を残す、傑出した存在次第なのだ。

※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『キングダム』
全国東宝系にて公開中
監督:佐藤信介
脚本:黒岩勉、佐藤信介、原泰久
出演:山崎賢人、吉沢亮、長澤まさみ、橋本環奈、本郷奏多、満島真之介、阿部進之介、深水元基、六平直政、高嶋政宏、要潤、橋本じゅん、坂口拓、宇梶剛士、加藤雅也、石橋蓮司、大沢たかお
配給:東宝
製作:映画「キングダム」製作委員会
(c)原泰久/集英社 (c)2019映画「キングダム」製作委員会
公式サイト:kingdom-the-movie.jp

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