『翔んで埼玉』に見る“ご当地自虐映画”の意外な奥深さ 埼玉、群馬の次に標的になるのはどこだ!?
あるコミュニティ内では当たり前のことであっても、外から見たら特殊で、それはときに尊く、ときにまた滑稽にも見えるものは多々ある。海外でなくとも同じ日本国内でさえ、そんなある種のカルチャーショックは、あちらこちらにあるだろう。この系譜に連なる作品では、2017年にドラマ化され、直後に劇場版も公開された『お前はまだグンマを知らない』(以降『おまグン』)がある。本作も『翔んで埼玉』と同様に、コミック(井田ヒロト著)を原作とした作品で、主人公を演じる間宮祥太朗が、千葉から群馬に越してくるところから物語ははじまる。とあるコミュニティーに、外部の存在が異物として混入することで物語が起動する構造は両作とも同じだが、差別を受けていた埼玉県人の革命劇である『翔んで埼玉』に対し、『おまグン』は主人公が慣れない土地・群馬での洗礼を受け、次第にその魅力に気づいていくというものだ。つまり本作は『翔んで埼玉』と違い、物語のはじめから、舞台である群馬へのリスペクトが貫徹されている。ところが、やはりそれを第三者の視点で見ると非常に滑稽であり、“自虐的リスペクト”とも呼べる面白さがあるのだ。
ところでご当地映画とは、ある特定の地域を主として扱った作品のことであり、これまでにもそういった作品は数多く製作されてきた。本作のように地方へのリスペクトとディスリスペクトが交差する『SR サイタマノラッパー』(埼玉)や『木更津キャッツアイ』シリーズ(千葉)、また単にご当地映画という分類では、1996年に公開された小栗康平監督作『眠る男』の製作に群馬県が関わっており、地方自治体が初めて映画作品に関与したものとして大きな話題を呼んだ。現在は、映画の撮影ロケ地への誘致や、支援をする機関であるフィルム・コミッションも存在し、この結びつきは、いわゆる町おこしや、地方の魅力再発見といったものに貢献している。今月公開の作品でいえば、鹿児島を舞台としたご当地映画『きばいやんせ!私』がそれにあたるだろう。
さて、冒頭で述べた動員ランキングにおいて、2週目はアカデミー賞受賞作『グリーンブック』を抑えて堂々2位にとどまった『翔んで埼玉』(公開館数の違いは大きいが)。2位とはいえ、これはもう、本作の筋書きとも重なる“埼玉レボリューション”を起こしつつあるといえるのではないだろうか。“自虐”という、ある意味特殊なモチベーションに支えられている本作ではあるが、ご当地映画の新たなる活路を切り拓くことになるのか、その動向から目が離せない。観光地として名高いシカ大国・奈良や、独特な文化風習を持つ沖縄を舞台にしたものなどにもぜひ期待したいところだ。
■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。Twitter
■公開情報
『翔んで埼玉』
全国公開中
出演:二階堂ふみ、GACKT、ブラザートム、麻生久美子、島崎遥香、成田凌(友情出演)、中尾彬、間宮祥太朗、加藤諒、益若つばさ、武田久美子、麿赤兒、竹中直人、伊勢谷友介、京本政樹ほか
原作:『このマンガがすごい!comics 翔んで埼玉』魔夜峰央(宝島社)
監督:武内英樹
脚本:徳永友一
音楽:Face 2 fAKE
主題歌:「埼玉県のうた」はなわ(ビクターエンタテインメント)
配給:東映
(c)2019映画「翔んで埼玉」製作委員会
公式サイト:tondesaitama.com
公式Twitter:@m_tondesaitama