「あの女に勝ちたい」木村多江のドス声響く 『後妻業』小夜子と朋美の立場が逆転

 シリアスなシーンだけでなく、コミカルなシーンでも木村の演技は魅力的に映る。笹島が小夜子に狙われていると知った朋美は小夜子の元へ向かう。木村佳乃演じる小夜子とのケンカシーンでは時々アドリブも入っているという。第6話では、手土産でもってきたたこ焼きを食べて、歯に青のりがついたまま小夜子に言い返すシーンがある。歯に青のりがついていることを小夜子にケタケタと笑われ、慌てふためく朋美という一連のシーンはテンポも良く、とびきりコミカルだ。

 注目すべきなのは、シーンごとに見合った朋美の表情を見せながらも、朋美が抱き続けている執念は崩さないというところだ。どのシーンにおいても、小夜子に対する敵対心や夫の浮気に対する不安、本多への想いを抑えようとする姿など、朋美を構成する事象が全くブレない。だからこそ小夜子と朋美のコミカルなケンカシーンのあとで、小夜子が朋美を追い詰めるシリアスなシーンになっても違和感なく朋美の感情が伝わってくる。

 朋美は小夜子に振り回され続けている。ただでさえ小夜子に父親の遺産を奪われているというのに、夫婦関係や子どもが産めないことについて図星をつかれる。そんな状況下で、海外出張中の夫が出張先で浮気相手と会っていることが核心に変わった瞬間、朋美はドスの効いた声で「あの女に勝ちたい」とつぶやく。自分からあらゆるものを奪っていく小夜子に対する敵対心が明確になった瞬間だった。この台詞を発してから木村の目つきは変わる。奪われる側から奪う側へ。小夜子から取り返そうとしている遺産だけでなく、何もかもを奪おうと決意している表情にも見えた。

 第6話終盤、飄々とした小夜子と小夜子に振り回されていた朋美の対照的な表情が逆転する。舟山(中条きよし)に一時疑いの目をかけられた小夜子は、朋美の前で見せるような強気な表情は一切出さず、かたい表情のままだ。その表情からは強い戸惑いが伝わってくる。一方、自分と組まないかと柏木に迫る朋美は勝ち誇ったような表情を見せている。柏木がどのような返事をするのかは第7話になってみないとわからないが、2人の表情が逆転したことにより、今後起こるであろう波乱の展開が予期できる。

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■放送情報
『後妻業』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週火曜21:00〜21:54放送
出演:木村佳乃、高橋克典、木村多江、伊原剛志、葉山奨之、長谷川朝晴、篠田麻里子、平山祐介、田中道子、河本準一、濱田マリ、とよた真帆、泉谷しげる
原作:『後妻業』 黒川博行(文春文庫刊) 
脚本:関えり香
演出:光野道夫(共テレ)、都築淳一(共テレ)、木村弥寿彦(カンテレ)
音楽:眞鍋昭大
企画・プロデュース:栗原美和子(共テレ)
プロデュース:杉浦史明(カンテレ)、萩原崇(カンテレ)、水野綾子(共テレ)
制作:カンテレ、共テレ
(c)関西テレビ
公式サイト:https://www.ktv.jp/gosaigyo/index.html

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