『ミスター・ガラス』が描く異色のヒーロー像 シャマラン監督初“ユニバース作品”に潜むテーマとは

“シャマラン・ユニバース”に潜むテーマとは

『スプリット』:“ヴィラン”の救済

24の人格を持つ男、ケヴィン

 『スプリット』は『アンブレイカブル』の同じ世界観での出来事を描いた作品だ。そして、この世界観をつなぐ男、それがケヴィン(ジェームズ・マカヴォイ)である。彼は23の人格を有する多重人格者だった。人格には、主に潔癖症であり女子高生誘拐事件を起こすデニス、品格のある女性パトリシア、永遠の9歳であるヘドウィグ、アーティストのバリーなどがいる。中でも『ミスター・ガラス』ではヘドウィグ、パトリシアがメインの人格として登場する。

 そして、24番目の人格“ビースト”が目覚める。彼は超人的な肉体を持ち、壁を登ることだって、物凄いスピードで走ることだってできる。まるで獣のような人格であり、人を食い殺すのだ。しかし他の23人格と彼の決定的違いは、そのパワーだけではない。23の人格はケヴィンが幼少期に母親から受けた虐待が原因で生み出された。しかし、ビーストは“ケヴィンによって生み出された人格ら” が、ケヴィンを守るために信仰し、生み出した産物なのだ。この“信仰”が、『スプリット』やビーストを考える上で重要な鍵となる。

ケイシーという少女

 そして本作でデニスに誘拐された女子高生たちの中で、唯一の生き残りであり、『ミスター・ガラス』にも再び登場するのがケイシー(アニャ・テイラー=ジョイ)。他の2人がビーストの餌食となって死んだのに、彼女だけ生還できたのは何故か。それは彼女の育った背景にある。

 ケヴィンが虐待を受けていたという過去は先述の通りだが、実はケイシーもまた叔父に幼少期から虐待を受けてきた。そのため、彼女の素肌は傷だらけなのだ。ビーストと対峙した時、彼女の衣服は崩れ、その傷が見え隠れする。それに気づいたビーストは彼女を攻撃する手を止め、こう言うのだ。「壊れは進化の証し。純粋な心であることを喜べ」と。そう、彼はケヴィンを救済するために生み出された人格で、痛みを知る“失意の者(broken)”を肯定し、讃えるのだ。

ビーストは“ヴィラン”なのか

 そこで、疑問にあがるのが「ビーストは果たして“悪”なのか」ということだ。結論から言うと、私は彼がヴィランではなくヒーローの一人だと考えている。いや、厳密に言うとヴィランにはヴィランなりの“正義”があり、故にビーストは誰かにとってのヒーローでもあると考えている。

 実際、ケイシーはビーストのおかげで精神的にも肉体的にも救済された。彼女にとって、彼はヒーロー(英雄)なのだ。そのため『ミスター・ガラス』でケヴィンが精神病院に入れられたことを知ると、彼女は彼の元へ感謝の気持ちと共に会いに行く。

『アンブレイカブル』との繋がり

 そして、『スプリット』のラストでは、少女誘拐事件のニュースをカフェで見るデヴィッド・ダンが登場する。ここで初めて2作品が関連していることに気づくのだが、実はその前に他にも重要な繋がりを表すシーンがあった。

 それは、ビーストが目覚める直前にケヴィンが花束を購入し、駅のホームに置くシーンだ。これが、実は『ミスター・ガラス』で明かされる秘密に繋がっていく。

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