新井浩文の逮捕により『台風家族』公開延期に 不祥事が作品公開に及ぼす影響を、弁護士に聞く

 では、映画を公開した際においては製作者、配給会社、宣伝会社などが法的な責任を負う可能性はあるのだろうか?

 「法律の一般論でいうと、公開した側が責任を負うことはまずありません。もちろん、公開によって被害者が不快な思いをすることも考えられますが、それを保護する理屈が法的に成り立つかというとなかなか難しいでしょう。一方、契約書に出演者の品位保持条項などが入っていて、それを破ったとして、そういった会社(製作会社、配給会社、宣伝会社など)から容疑者への、債務不履行を根拠とした損害賠償が成り立つ可能性はあります。契約書がなかった、もしくは契約書に明記されていなかった場合においても、品位の保持は義務であるという解釈で契約不履行になる可能性はあります」

 このようなケースにおいて問題となるのは、法的な問題よりも「イメージ」低下のリスクだと小杉弁護士は指摘する。映画やドラマなどの作品をある種の「商品」として捉えると、その商品を売るか否かは、売り手が個々のリスクを考慮して決めるということになる。

 「どうしても映画などの芸術作品は観る側も思い入れを抱きます。しかし性的暴行という罪状も踏まえ、仮に公開を強行した際、作品を観ない人からすれば、『性犯罪被害を重くとらえていない』『性犯罪に甘い』『世評を気にしていない』などのイメージを持たれかねず企業イメージの低下は必至であり、例えば今回のNHK側のオンデマンド配信中止の対処を“過剰反応”の一言で済ませられるものではありません。推定無罪(“何人も有罪と宣告されるまでは無罪と推定される”という、近代法の基本原則)というのはあくまで刑事司法の原則であって、報道や企業の判断も一様にその原則に従うべき、とまでは言えないのではないでしょうか」

 確かに作品に罪はない。作品を観たいという鑑賞者の思いも考慮されるべきであろう。しかし、作品を公開するということは、多くの人間の目に入るということでもあり、そのために製作者や出演俳優はあらゆる責任を背負うこととなる。改めてその責任の重さを感じる事件となった。

(取材・文=編集部)

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