新垣結衣の退職がゴールじゃない 様々な人生を肯定する『獣になれない私たち』の温かさ
喪失感の意を含む“けもなれロス”なんていうよりも、温かい想いではちきれそうな結末だったので、“けもなれフル”の方がふさわしいような気がした。主演・新垣結衣×脚本家・野木亜紀子のラブかもしれないストーリー『獣になれない私たち』(日本テレビ系)が12月12日に最終回を迎え、生きづらさを抱えてきた多くの人から「ありがとう」の声が上がっている。
前回の放送で、九十九社長(山内圭哉)に抗議したものの「お前がいなくても会社はどうにでもなる」と大きな爆弾を落とされた晶(新垣)。一方、恒星(松田龍平)も、軽蔑していた土下座までして粉飾決算への加担をやめさせてほしいと頼んだのに、聞く耳を持ってもらえなかった。ボロボロになった2人は、互いに温度を求め、一夜を共にすることに。しかしそれが「間違った」行動だったのではないかと、心にモヤモヤを抱えることになった。
「深海さんがいないと……」とか「根本さんくらいしか……」のような言葉に弱い2人は、振り返ってみても誰かのために動いてばかりいた。晶も恒星も、呉羽(菊地凛子)やカイジ(飯尾和樹)のように、潔く獣のように生きる人間ではない。2人ともそんな自分のことを一番わかっていて、感情的に動いても後悔することを知っていた。それでも、晶は九十九社長に退職願という爆弾を投下し、恒星は税務署に粉飾決算を暴露しに行けたのは、「人に支配される人生はごめん」だったからだ。
『獣になれない私たち』は、晶が仕事を辞めたり、恒星と恋人になったりすることがゴールではない。この作品の中で大切なのは、それぞれがそれぞれの人生を取り戻すことだ。たくさんのドラマや映画の中では、主人公が何かを達成するまでを描くが、実際に生きてみてわかるように、ほとんどの人の人生は作品化できるような機会には恵まれない。突然大金持ちのイケメンに街角で告白などされないし、ある日スーパーパワーを授かって世界を救うようなことは起きないことは周知の事実だ。