『獣になれない私たち』のテーマは近代文学にも繋がる? その凄さの本質を徹底解剖

創作物は人間を救うことができるか

 それが本物の爆弾でない限り、現実はドラマの後も続いていく。だからこそ現実を反映した本作においては爆弾をおいそれと投げることができないわけだが、たとえ爆弾を投げたとしても、また一から新しいことを始めればいいだけの話だと言うこともできる。少なくとも自殺するよりは良いはずである。

 爆弾を投げても、投げなくとも、その可能性を持っている限り、我々は日常のささやかなテロリストである。それを握ることによって厳しい現実に対処していくことが、社会という制約のなかにいる弱い人間に残された、数少ない自由意志であることに違いはない。本作は、そんな爆弾を抱えた我々を優しく見つめ、現実の問題を安易に解決しようとしない誠実さを見せる。

 だが、そんなドラマの存在意義すらも、本作は厳しい目を向けている。呉羽の結婚相手である、ゲームクリエイターの「橘カイジ(たちばな・かいじ)」に会ったとき、橘はゲームを制作する理由を明かす。彼は、過去に自分が精神的にまいってしまったとき、ひたすら家にこもってゲームをするしかない日々を過ごしたことがあり、そんな過去の自分のように行きづまった人々が明るいところへ向かえるようにゲームを作るのだという。恒星は、ゲームで本当に絶望した人間が救われることなんて「ないでしょ」と言い放つ。

 ゲームもドラマも、一つの疑似的な世界を作り上げる創作物に過ぎない。恒星の言う通り、現実にいま、このドラマで描かれたようなシリアスな問題によって絶望の淵にある人を、ドラマが救うことはできないかもしれない。本作は、そこまで強い内省によって、自己を否定するところまでいってしまう。しかし、それでもそんな困難な道を目指すことが、今回の脚本家の挑戦だったのではないだろうか。それには、簡単に乗り越えられる問題を描いて、脆弱なカタルシスを用意するだけでは間に合わなかったはずだ。

 TVドラマや映画では、安易な嘘や、見せかけのカタルシスが氾濫している。そんな物語に、簡単に感情移入できて、生きる活力が与えられるなら、こんなに楽なことはない。しかし、そういうドラマに心から救われることができない私たち、つまり獣になれない我々にこそ、現実と戦い続けるパワーを与えようとするのが本作のねらいではないだろうか。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■放送情報
『獣になれない私たち』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:新垣結衣、松田龍平、田中圭、黒木華、菊地凛子、田中美佐子、松尾貴史、山内圭哉、犬飼貴丈、伊藤沙莉、近藤公園、一ノ瀬ワタル
脚本:野木亜紀子
演出:水田伸生
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:松本京子、大塚英治
協力プロデューサー:鈴木亜希乃
制作会社:ケイファクトリー
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/kemonare/

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