ロマンチシズムと暴力が交差する 『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』は“現代的西部劇”に

 メキシコの麻薬組織(カルテル)と戦う女性FBI捜査官を描いた前作『ボーダーライン』('15)から約3年、続編となる『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』が日本でも公開となった。シリーズの売りである激しい戦闘シーンやバイオレンス描写もふんだんに盛り込まれ、アメリカとメキシコの国境をテーマにしたストーリー性も受け継がれた本作。また、1作目の公開時と比較してもっとも大きな変化は、何といってもドナルド・トランプの大統領就任であろう。メキシコとの国境に壁を作り、その費用をメキシコ側に負担させると奇天烈な主張をする新大統領が誕生して以降、国境にまつわる物語はより生ぐさい現実味を帯びて観客へ訴えかけるようになった。現実の側が映画へ近づいたという点においても、いま見るべきフィルムである。

 シリーズ2作目である本作は、アメリカ国内の商業施設で発生したテロ事件から始まる。多数の死者を出したテロ実行犯は、メキシコからの不法入国でアメリカへ侵入し、事件を起こした疑いが持たれている。犯人のアメリカ入国にメキシコの麻薬組織が関与したと考える政府は、麻薬組織をテロ集団とみなし、その壊滅を指示する。政府から指示を受けたCIA工作員マット(ジョシュ・ブローリン)は、組織を直接に攻撃するよりも、組織どうしの抗争を煽ることで共倒れを狙う作戦が効果的だと主張する。メキシコで麻薬王の娘を誘拐し、これを敵対組織の仕業だと見せかけることで抗争を開始させようという大胆な作戦を立案し、学校帰りの少女が誘拐される。

 前作の重要なせりふ「法の秩序が残る場所へ行け」「ここは狼の地だ」が示すように、本シリーズでは、ひとたび国境を越えれば法や警察が味方してくれない残酷な社会があり、誰もが剥き出しの暴力にさらされるほかないという恐怖が描かれている。メキシコとは「狼の地」であり、その無秩序な場所で人びとはただ獣のように殺しあっているのだ。とはいえメキシコの麻薬組織は、アメリカ人が麻薬を大量に消費するからこそ存在するのであり、メキシコに蔓延する暴力はアメリカが後ろめたい快楽を得るための代償でもある。アメリカ人がみずからの快楽をむさぼった結果、メキシコは無法地帯とならざるを得ない。ゆえにメキシコに蔓延する暴力や犯罪は、アメリカがいずれ支払わねばならないツケでもある。

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