ハリウッド進出も間近? マ・ドンソク、“強さ”と“愛らしさ”を兼ね備えた「マブリー」な魅力
ステレオタイプな“男気キャラ”からの脱却
『ファイティン!』の一番の魅力は、コワモテでマッチョな外見のドンソクが、素朴で愛らしい姿を見せること。そのギャップは、「マブリー」(マ・ドンソク+ラブリー)の愛称で親しまれる彼の出演作の中でも屈指のもの。旧来のいわゆる“男らしさ”を持ちながらも、それを誇示せず、不器用ながらも感情を伝えようとする彼の姿を観れば、誰もが好きになってしまうはずだ。
振り返ってみれば、ドンソクが演じてきたキャラクターは、ヤクザや刑事といった荒っぽい職業で、力強い二の腕で弱きを助ける“男気キャラ”が多かった。しかし、そのいずれもが多面的で、ステレオタイプを逸脱したものばかり。2015年以前は友情出演や脇役が多いが、『ある母の復讐』(12年)では無神経な汚職刑事を、『悪いやつら』(13年)ではテコンドーの師範を名乗りながらも気弱な半グレ、『隣人-The Neighbors-』(15年)では殺人鬼と対峙する借金取り、『フェニックス 〜約束の歌〜』(13年)では脳腫瘍の元ヤクザ、と出番は多くなくとも、強烈な個性を放つ役ばかりを演じてきた。しかも、全ての役が“見た目はすべてマ・ドンソクそのまま”なのである。
主役級を張り始めたここ2、3年の作品からは、脇役で培ってきた様々な経験がさらに活かされてきたのが見て取れる。特に『グッバイ・シングル』(17年)でのベテラン女優(キム・ヘス)のマネージャー兼スタイリスト役が秀逸だった。多様性が叫ばれるハリウッド映画ですら、スタイリスト役は「オネエ言葉を話し、ピッタリとした服を身に着けた人物」として描かれがち。しかし、ドンソクが演じたのは服装こそ派手ながら、ごく普通の理知的で慎重な男性像だったのである。その代わり、彼が演じたスタイリストは、子どもを産むことに不安を感じる女子中学生に対し、子育てのコツや楽しみを嬉しそうに語る……つまり、当たり前のように育児・家事を担当する現代的な男性を演じたのである。筋肉俳優などとも呼ばれるドンソクだが、もはやジャンルを問わず活躍できる実力の持ち主と言っていいはず。
近年のドンソクは、演じるだけでなく、自身の会社で脚本・企画を生み出すなど、製作にも積極的に関わり始めた。興行的には成功しなかったものの、連続殺人鬼を演じた『罠』がその第1弾。同じく企画・主演した『犯罪都市』(17年)は、R指定映画としては韓国で歴代3位の興収を上げ、続編の製作も決定している。ステレオタイプから逸脱できる稀有な才能の持ち主は、次にどんな役を演じるのか?
■藤本洋輔
京都育ちの映画好きのライター。趣味はボルダリングとパルクール(休止中)。TRASH-UP!!などで主にアクション映画について書いています。Twitter
■公開情報
『ファイティン!』
シネマート新宿ほかにて公開中
監督:キム・ヨンワン
出演:マ・ドンソク、クォン・ユル、ハン・イェリ
配給:彩プロ
2018年/韓国/108分/英題:Champion
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公式サイト:http://fightin.ayapro.ne.jp/