『食べる女』で女性たちを取り巻く“食”と“性” 沢尻エリカ、前田敦子らの“食べる”から読み解く

『食べる女』女たちを取り巻く“食”と“性”

食事に相性の悪さを感じる多実子の場合


 一方、多実子は今その手で自身の恋愛を終わらせようとしている。交際相手から結婚したいと告げられたにも関わらず、浮かない様子であった。その多実子の彼もまたタナベのように料理にマメな男性だという。しかし多実子はなびかない。関係性もどこか刺激がなくしっくりきていないという。ドドが胃袋を掴まれたことと対照的に、食事を作ってもらっても相性の悪さを感じている多実子。食事の相性は、人生のパートナー選びにまで響いてくる。前田はそんな多実子のくすぶる心の内を天真爛漫なキャラクターで真逆に振り切って演じる。悩みは多いが忘れようと必死で飲み歩く。そんな姿にリアルな現代女性の影を感じずにはいられない。結婚したばかりの勝地涼との共演シーンも多く、本作が前田のキャリアを語るに重要な役割を果たしていることは明らかだ。

“ステーキのような女”を志すあかりの場合


 そしてひき肉料理ばかり作っていたことで振られてしまったあかり。安い女にはならない、ステーキのような女になると決意しステーキ肉を買う。しかし最後にいざ恋仲になった友太(小池徹平)にも結局ひき肉料理を作ってしまうというオチ。自身の価値のアップデートには失敗するが、個性を活かしてより良い恋人に恵まれた。複数の男性とのベッドシーンなど、体当たりの芝居が印象的な広瀬。身体の関係にルーズな役でも前のめりの演技で立ち向かい、清純派としてだけではなく着実にキャリアを積んでいる。古着屋の店員という個性的なファッションも着こなし、イメージの幅を広げた。

 彼女たちを取り巻く“食”は“性”とも密接に絡みあう。食事を摂るという“生”の部分と、生命をつなぐ“性”の部分、そして本能的に求めあう“食”が奇跡的に一致すると、あれほどのプライドの高いドドでさえタナベを受け入れてしまう。しかし不倫しかしてこなかった多実子がやっと手に入れた普通の恋愛でさえ、これらの“食”や“性”が一致しないとお別れに繋がってしまうのだった。あかりのように“食”にこだわりがなく、ルーズになりがちだと“性”の部分もルーズになりがち。彼女たちの生活は、食事を通して恋愛観や人生観まで筒抜けであった。

 しかしその素直な表情が食事を楽しむ際の喜びでもある。人は思っている以上に食事から得られる情報が多い。几帳面さ、好み、体型も推測でき、アレルギーなどの身体的な特徴までわかる。この“食”というはっきりとしたテーマで描くことで、ドドや多実子は通常の群像劇以上に深堀りされたキャラクターとなった。

 沢尻や前田、広瀬はそれぞれ映画やドラマ俳優としてのキャリアも長い。彼女たちの卓越した表現力は、匂いも味もわからない映画という媒体で“食”を描くというハンデを悠々と乗り越えた。そして小泉や鈴木京香といったベテランと共演し、より一層の魅力を増したように感じる。本作の女優陣は実力派がそろう。群像劇という一人ひとりがフォーカスされる構成の中で、誰一人埋もれることなく、作品を支えきったように感じる。劇場ではその美味しそうな“食べっぷり”にぜひ注目して欲しい。

■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter

■公開情報
『食べる女』
全国公開中
出演:小泉今日子、沢尻エリカ、前田敦子、広瀬アリス、山田優、壇蜜、シャーロット・ケイト・フォックス、鈴木京香、ユースケ・サンタマリア、池内博之、勝地涼、小池徹平、笠原秀幸、間宮祥太朗、遠藤史也、RYO(ORANGE RANGE)、PANTA(頭脳警察)、眞木蔵人
監督:生野慈朗
原作・脚本:筒井ともみ『食べる女 決定版』(新潮文庫・8月末刊行予定)
主題歌:「Kissing」Leola(ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズ)
音楽:富貴晴美
PG12
(c)2018「食べる女」倶楽部
公式サイト:http://www.taberuonna.jp/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる