原作と異なる描写に批判の声も 『この世界の片隅に』最終回は現代パートが鍵に?
それは、畑からすずが見下ろす景色の中に太極旗がひとつはためいているカット。幼い晴美やすずの兄・要一、そしてすずの右手を奪っていった“戦争”というものが決して一方通行の暴力ではなかったということ、日本は被害者であると同時に加害者でもあったということを知ったすずが、その場で泣き崩れ「知らんまま死にたかった」とつぶやく場面が、原作コミックとアニメ映画版の両方には描かれていた。
それをカットしたことによって、戦争の被害者としての立場のまま、終戦を迎えた悔しさとやり場のない悲しさですずが泣き伏せているという場面へと変わってしまっていたのである。それは戦争ドラマとしての描き方の良し悪しや歴史解釈の問題であったり、単純に原作やアニメ映画版との比較とも異なり、もっと根本的に、この『この世界の片隅に』という物語自体が本来持っていた大きなメッセージから遠ざかってしまっているような気がしてならない。
それでもひとつの可能性として、このドラマ版ではオリジナルの現代パートがある。物語に占める部分が圧倒的に少なく、その必要性など賛否両論あるまま最終回へと突入することになるわけだが、この現代パートが迎える結末次第では、原作とはまた違う、現代へと直接投げかける非常に大きなメッセージが描写されることになるのではないだろうか。
■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter
■放送情報
日曜劇場『この世界の片隅に』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
原作:こうの史代『この世界の片隅に』(双葉社刊、『漫画アクション』連載)
脚本:岡田惠和
音楽:久石譲
演出:土井裕泰ほか
プロデュース:佐野亜裕美
出演:松本穂香、松坂桃李、村上虹郎、伊藤沙莉、土村芳、ドロンズ石本、久保田紗友、新井美羽、稲垣来泉、二階堂ふみ、榮倉奈々、古舘祐太郎、尾野真千子、木野花、塩見三省、田口トモロヲ、仙道敦子、伊藤蘭、宮本信子
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